気づいた事
気づいた事がある。
好きだという気持ちに。
その相手がいなくなってから気がついた事。
酷く、自分が嫌だった。
もう、止められなかった。
あいつにとって、それほどどうでもいい事だったのだろうか?
簡単に全てを裏切ってしまえるほど、それはどうでもいい事だったのだろうか?
全てを捨て去ってしまえるような…事だった?
「紫苑は眠りについたのさ。二度と目が覚める事のない永遠の眠りにな…」
紅真は自分のその言葉を聞きながら、至極不思議な気分に陥っていた。
ここは常世の森。
高天の民の末裔の住む森。
一度足を踏み入れた者は二度と生きては帰れないと言われているその森で、紅真は紫苑の心具を破壊した。
心具の破壊は精神の破壊を意味する。
紫苑は紅真のその言葉の通り。
眠ったように動かず、折れた己の心具――月読の剣――をその腕に抱いたまま崩れ折れている。
そんな紫苑を見ながら、紅真のその表情は今にも泣きそうに歪んでいた。
最も――端から見たそれは、狂喜に歪んだ哄笑。
「許さねぇ…」
紫苑と共に紅真の元にやって来た男――レンザ――が呟いた。
真っ直ぐに紅真を睨みつけながら、怒りを露わにして言う。
「コイツとはまだ一日二日の付き合いだし、正直ナマイキで気にいらねぇヤツだったけど…」
紅真はそんなレンザの言葉を、どこか遠くから聞いていた。
こいつが、今紫苑と共にいる?
こいつらの方が…紫苑にとっては重要だってことか?
こんな奴らの方が…?
「…なんか!このままじゃ許せねェ…!!」
レンザが言った時、紅真の中で何かが弾けた。
口は勝手に開いていた。
どうしようもない狂気が、勝手に言葉を紡ぐ。
「なら、かかって来るか?お前もついでに殺してやるよ」
「てめェエッ!!!」
身体は勝手に動いた。
目の前にいる「敵」を倒すために行動を起こす。
強くならなければならない。
誰よりも。
紫苑はそんな俺にとって、一番初めの壁。
越えなければならない壁。
今越えた。
越えた。
越える…?
ドカッ!
紅真に吹き飛ばされ、レンザが地に崩れる。
紅真はたった今、自分が弾き飛ばした男を見下ろしながら、相変わらずの狂気に満ちた笑みで告げる。
「…ザコヤローが…」
なんでお前みたいな奴が紫苑の傍にいる?
何故紫苑はお前らみたいな奴のところにいった?
お前ら程度の奴らが…なんで紫苑の傍にいられるんだ…!!
「お前如きがオレと闘おうなんざ千年早ェ!」
そうだ。
紫苑と共にいるなんて、認められない。
オレの方が…ずっと紫苑の隣にふさわしい!
「止めは…この紅星の剣でくれてやるぜ!」
紅真が紅星の剣をかがげようとしたその時。
それまで確かに消えていた「気」の派動が全身を振るわせた。
この派動。
紫苑?
ありえない。
心具が破壊されて…まだ立ち上がれるのか?
「紫苑…」
紅真が呟く。
その目の前には、強い意志と力を秘めた澄んだ瞳の少年――紫苑が、折れたはずの月読の剣を手に立っていた。
月読の剣は、折れる以前にも増して神々しく。力強い輝きを放っていた。
紅真の目は見開かれ、次いでそれは笑みを作るために細められた。
再び始まった二人の闘い。
制したの紫苑だった。
なんで…殺さない?
ボロボロになった身体で、紅真は胸中一人呟いた。
紫苑は紅真を殺さなかったのだ。
オレが殺さなかったからか?
思いながらも、それが違うであろうことが紅真にははっきりと分かっていた。
紅真は確かに、紫苑を肉体的には殺さなかった。
だが、心具を破壊して、精神を崩壊させようとしたのだ。
それはある意味、肉体的な死よりも痛ましい。
溢れ出た狂気のおこさせた行動。
狂おしいほどの欲望が望んだ事。
独占欲を満たすために――。
手段すら、選べなくなる。
精神の崩壊から立ち直ったっていうのか?
あいつらの為に?
オレには…肉体も側に置かせてくれないのか…。
きっと、心を手に入れる事は出来ないから。
せめて。
その身を側に置きたかった。
君のその心は。
オレを、疎んでいるから。
「オレは、逆だな」
紅真と相対した時。
紫苑はそう言った。
会えて嬉しいと言った紅真に対しての紫苑のその言葉。
それはきっと…本心から。
会えて嬉しかった。
ずっと、欲していたから。
きっと。
君から来てくれる事はないだろうから。
君は、離れていくだろうから。
側にはいてくれないだろうから。
「なぁ…紫苑の大切なものって、なんだ?」
「それを聞いてどうする?」
修羅の問いかけに紅真は言った。
「それを…壊してやるよ…」
強くならなければいけないんだ。
誰よりも。
元々あった理由は今も生きているけれど。
今は。
君の側にいたいから。
君を、側にいさせたいから。
そのために。
誰よりも強くなろう。
君を越えよう。
そして。
君に認めさせるから。
気づいた事がある。
好きだという気持ちに。
欲しくて仕方がない。
独占欲が止められない。
「壊してやるよ」
君が…。
空っぽになるように。
気づいた事がある。
いつも。いつまでも側に居たいんだ。
自分だけを見ていてほしいんだ。
見てほしいんだ。
気づいてほしいんだ。
この存在を。
だから。
君の大切なもの全て…壊していこう。
君のその瞳が。
オレだけを見つめられるように――。
END
紅真×紫苑。
どこにもないので、自分で書きました(爆)。
紅真が本誌に出て来たとき、私の頭の中に何かが飛来したようです。
瞬間的に紅真×紫苑が私の中で成立し、その面積を埋めていき広がっていきました。
紅真は絶対紫苑が好きです!!(力説)
だって、あの執着振りはそれしか考えられませんよ!(妄想)
私はたとえ一人でもそう信じ続けていきます。ところで。
ジャンプで読みきりではじめて出た時の紫苑って、瞳赤かったのですよねぇ…カラーイラスト。
私的にそっちの方が好みだったりして…(笑)。謎だらけで終わってしまった邪馬台幻想記。
好きだからもっといろいろ書きたいなぁ。でわ、このへんで。
誰か同志いないかなぁ?(本当は寂しい。爆!)