なかよし

 
 紫苑君と紅真君は仲良しお隣さん同士。
 ご家族ぐるみのお付き合いです。
 そんな二人。
 今日は紅真君のご両親がお出かけのため、紫苑君のお家に紅真君がお泊りに来る事になりました。
 なかよしの二人。
 いつものように仲良く良い子に遊びます。
「紫苑、紅真君。二人とも、お風呂に入っちゃなさい」
 お夕食前の少し遅くなった時間。
 紫苑君のお母さんが二人に言いました。
「「は〜い」」
 二人は仲良く声をそろえてお返事します。
 お部屋のお片付けを簡単にして、パタパタと駆け足でお風呂場に向かいました。
 ガラッ。
 お風呂場のドアを開けてまず入ってきたのは紅真君です。
「紅真。お湯の中に入る前に、きちんと身体洗えよ」
 言ったのは紫苑君です。
 いつもお母さんにそうするように言われています。
「わかってるよ。うるせぇなぁ」
 紅真君も文句を言いながらも、それに従います。
 彼もお家ではお母さんにそう言われているのです。
「あれ?」
 体を洗おうとタオルに手を伸ばした紅真君。
 ある物に気がついてその手を止めます。
 それは「アヒルさん」でした。
 黄色いお風呂に浮かぶあれです。
「どうしたんだ」
「おい、紫苑。お前、まぁだこんなもの風呂にいれてんのか」
 紫苑君の疑問の声に、紅真君はにやりとした笑みで紫苑君をからかうように言います。
 紫苑君の顔が真っ赤になり、次いで怒ったように険しい物になりました。
「憶えてないのか――」
「?何を」
「…別に」
 紫苑君怒っています。
 あきらかにものすごく怒っています。
 理由を問う紅真君を無視し、一人さっさと体を洗って湯船の中に入っていってしまいました。
 呆然とする紅真君。
 なんだかんだで仲の良いこの二人。
 喧嘩するほど仲が良いとは言っても、この紫苑君の怒りは尋常ではないような気がします。
 何故だか分からないけれど、紫苑君が怒っている。
 これまた何故だか分からないけれど。
 紅真君は紫苑君を怒らせると落ち着かなくなるのです。
 胸の中のもやもやが膨らんで、なんだかとっても不安になります。
 紅真君は慌てふためきその頭をフル回転させ、アヒルに関する記憶を片っ端から呼び起こしました。
 そんな中。
 何やら引っかかる記憶が見つかりました。
 それはかなり前の事。
 今も小さい二人が、もっと小さかった頃の話です。
 その日、紫苑君はお家の都合で紅真君のお家にお泊りに来ていました。
 そう。今とまったく同じ状況が、お互い逆の立場で展開された時があったのです。
 紅真君と紫苑君は紅真君のお母さんに言われ、二人仲良くお風呂に向かいました。
 そこで先にお風呂場へ足を踏み入れたのは紫苑君です。
 紫苑君はとある物を見つけ、それを手に取りました。
「こうまくん。これ、かわいいね」
 言われて紅真が見ると、それは黄色いアヒルさんでした。
 紅真君のお父さんがどこからか貰ってきたもので、そのままお風呂場に置きっぱなしにされていたものです。
「しおん、きにいったのか?それ」
「うん」
 紅真君が訊くと、紫苑君はとてもかわいらしい笑顔で頷きます。
 それを見た紅真君。
 何故だか胸がどきどきしてきました。
 それを悟られたくない気持ちと、紫苑君を喜ばせたい気持ちから。
「じゃぁ、やるよ。それ」
 紅真君は素っ気無さをよそおって言いました。
 紫苑君は紅真君のその言葉にびっくりです。
 気に入ったとはいっても、別に欲しいとねだったわけではありませんでしたし、何よりお母さんから言われています。
「むやみに人様から物を貰ってはいけません」
 と。
 なので紫苑君は当然断りました。
 しかし紅真君。
 一度言った事は押し通すタイプです。
 紅真君の押しの強さに負け、紫苑君はそのアヒルさんを受け取りました。
「ありがとう。こうまくん」
 紫苑君は紅真君にそう言い、とても嬉しそうな満面の笑顔を送りました。
 紅真君の胸のドキドキがさらに大きくなります。
「だ、だいじにしろよ!」
 紅真君は赤くなる顔とドキドキを隠すために少し怒鳴るように言いました。
 しかし紫苑君。
 そんな紅真君の気持ちなど露ほども知らずに。
「うん。ずうっと、だいじにするね」
 と。
 とどめと言わんばかりの笑顔を向けて言ったのでした。
「…」
 はっきりと思い出した紅真君。
 困ったのと嬉しいのと同時に襲ってきてかなり複雑な気持ちです。
 紫苑君が自分からの贈り物を本当に持っていてくれた事はとても嬉しいのですが、今、彼の怒りを抑える手立てが思いつきません。
 どうしようかと、先程よりもさらに頭を回転させて考えます。
 そして。
「ありがとう。ごめん」
 紅真君は今の気持ちをそのまま言葉にする事にしました。
 いきなり言われた紫苑君。
 主語のぬけた紅真君のその言葉に、一瞬わけがわからずきょとんとしましたがすぐに。
「もういいよ」
 紅真君がアヒルさんのことを思い出し言っているのだと気づき、あの頃と同じ笑顔を向けて言いました。
 紅真君一安心です。
 ほっと胸をなでおろすと、紫苑君の先に入っていた湯船の中に入ります。
 その後はいつもどうり。
 二人はなかよしさんです。
 喧嘩をしてもすぐに仲直りしてしまいます。
「それにしても紫苑」
「なに?」
「お前、ほんとにこれ気に入ったんだな。ずうっと持ってるなんてさ。普通こんなの捨てちまうぜ」
 アヒルさん指し示しながら紅真君が言いました。
 その紅真君の言葉に、紫苑君は熱さで火照ったのとは別に頬を朱く染め。
「だって、紅真に貰ったから…」
 小声で言いました。
 それを聴き取った紅真君。
 紫苑君と同じく頬を染め。
「じゃぁ、今度またなんかやるよ」
 にかっとした。
 どこか照れたような嬉しそうな笑顔で言いました。
 二人はなかよしさん。
 いつまで経っても変わりません。
 
END
 
 

 
   真闇様から頂いたイラストを見て書きました。
   紅真と紫苑は、なかよしv
   なんか勢いだけで書き上げたような…。
   愛です。愛(笑)。
 
 

 
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