+ にゅうがく +
紫苑くんは半眼になってそれを見つめていました。 その小さな手にあるのは、今年の新一年生たちに小学校から送られてくる入学式への招待状です。 そこには小学校に上がる直前の紫苑くんたちが自分たちで読めるように、ひらがなでこう書かれていました。 『―――しおんちゃん。 にゅうがくおめでとうございます。 しょうがっこうであなたとあえるのを、こころからたのしみにしています―――』 紫苑くんは半眼になってそれを見つめていました。 はっきり云って紫苑くんは男の子です。 「〜ちゃん」と呼ばれるのは女の子か、自分よりももっと小さい子に対して使われるものだと思っていたりするのです。 だから、大人の人とかに「紫苑ちゃんも大きくなって〜」などと云われると、いつも紫苑くんは頬を膨らませていました。 でも、紫苑くんが今それを半眼で見つめているのは、それだけが理由ではありませんでした。 紫苑くんの一番仲良しのお友達の紅真くんは、紫苑くんと同じ歳で、やっぱり今年小学校一年生になります。 その紅真くんのところにも、紫苑くんに届いたのと同じ小学校からお手紙が届いています。 二人は仲良し。 紫苑くんは「ちゃん」についての文句を紅真くんと語らおうと話題に上らせます。 そして紅真くんから帰ってきたのは、「なんのこと?」という疑問。 紅真くんに見せてもらったお手紙には、「――こうまくん。」と書いてあったのでした。 「お母さん、ぼく、女の子じゃないのに…」 「あらあら。紫苑ってお名前は女の子にもあるから、勘違いしちゃったのかもしれないわね」 お母さんのその台詞を聞いて、紫苑くんはそれはもうびっくりしました。 これまで自分の名前が女の子にも使われるだなんて知らなかったし、考えたこともなかったのです。 別に自分の名前が嫌いなわけではありませんし、それを聞いても嫌になることはありませんが…いろいろ複雑なお年頃です。 なりより心配なのは…。 (しゅっせきばんごうとか、女の子にまぜられてたら…どうしよう……) でした。 こんな心配、お母さんたちには恥ずかしくて云えません。 不安なので紫苑くんはこっそり紅真くんに相談すれば、紅真くんは不安そうな紫苑くんの表情に大慌て。一生懸命「大丈夫だよ」、と励ましながら、心の中で(紫苑が女の子になるんだったら、絶対に俺がお嫁さんにするぜ!!)とか意気込んでいたのでした。 そんなこんなで。 今日は入学式当日です。 お天気は快晴。 きっとみんなの日頃の行いがいいからですね。 とかなんとかは誰かが云っているかもしれないし、云っていないかもしれないし。 学校の門には立派な桜が植えられていて、青い空に淡いピンクが美しく映えています。 お母さん、お父さんに手を引かれて。 おろしたてのとっておきのお洋服でおしゃれして。 新一年生のみんなは、どきどきわくわく小学校へ足を踏み入れます。 新一年生のクラス表はひらがなで名前が書かれて張り出されていました。 男の子は黒のマジックで。 女の子は赤のマジックで。 紫苑くんはどきどきしながらクラス表から自分の名前を探します。 「あっ」 一組から順に見ていき、紫苑くんはようやく自分の名前を見つけます。 ちゃんと黒のマシックで、男の子の欄に名前が書いてあったのを見て、紫苑くんは(あくまでも)心の中で狂気乱舞して喜びました。 むしろ一安心して気が抜けた感じです。 なので、幸か不幸か隣りで小さく舌打ちしている紅真くんに気がつくことはありませんでした。 さてさて。 こうして紫苑くんと紅真くんは晴れて小学生への一歩を踏み出したのでした。 まだまだちっちゃい仲良し二人。 これから何が起きるのか。 それは誰にも分かりません。 ……いえ。 後者の影からほくそ笑む彼女には…分かっているのかもしれません。 新一年生を見守るその翡翠色の眼差しは、生暖かく微笑んでいたのでした。
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----+ あとがき +------------------------------------------------------
半実話。管理人の体験記より一部抜粋(笑) 今日の朝起きてなんでか突然思いつきました。入学式ネタ。久しぶりの行事ネタです。他にいろいろやることがあって書くのもUPも遅くなってしまったことが中々につらいところなんです。 ちなみに。最後の見つめていたのは某女王様です。 ご意見ご感想ありましたらぜひお寄せくださいです---2003/04/08 |
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