□ あめ □










あめあめ ふれふれ もっと ふれ










 窓から見上げる空にはどんよりと重たい雲が立ち込め、硝子を通過して激しい雨音が絶えず耳に飛び込んでくる。台風が来ているとのことだった。

「かさ…忘れたね」
「…うん」
「おかあさんたち…むえにきてくれるかな」
「きっと雨が降ったことにも気がつかないで寝てる」
「だろうね」

 教室の窓から激しい雨の降りしきる外を眺めて会話しているのは、銀の髪の少年と赤い瞳の少年だった。
 下校時刻。
 彼らの目に映るのは、傘を届けに来た母親と一緒に帰る友人の姿。
 朝は、快晴だった。

「きょうかしょ…おいてったらだめかな」
「今日くらいへいきだろ。ぬれちまったらよめねぇもん」
「だよね」

 二人は雨にずぶ濡れて帰る覚悟を決めた。
 せめて手をつないで帰ろう。
 誰も迎えに来てくれない寂しさを、雨に濡れて帰る惨めさを、少しでもごまかすために。





 ランドセルに雨粒が叩き付けられて、まるで打楽器の演奏でもしているかのようだった。傘を差していてもきっとずぶ濡れになるだろうほどに激しい雨。
 ここまで濡れてしまうと、いっそ気持ちいいかもしれない。
 一人なら、雨はただ冷たくて、濡れそぼる自分はただ寂しくて。
 けれど、冷たく湿ったこの肌の。くちゃくちゃになった洋服から滴る雫の。そのなかでただ一点。
 繋がれた手のひらから伝わる体温が、一人じゃないそのことが。
 ただ、嬉しい。

「ねぇ、こうま。こうえんによっていうこうか」
「べつにいいけど…どうしたんだよ、きゅうに」

 銀の髪は雨の雫をまとってきらきらとひかります。太陽の光さえ届かない、厚い雲の立ち込めたこんな日でも、光り輝くものがあるのを、紅真くんは知っていました。
 洋服もびちゃびちゃ。
 靴もびちゃびちゃ。
 からだ中、雫の通り道。
 まだ夕方にもなっていないのに、景色は暗く、辺りは静かで。
 けれど、二人は寄り道をします。

 公園には紫陽花の花がたくさん植えられていて。紫に藍(あお)に薄青に。いろ取り取りの姿を見せています。
 梅雨の雨にも台風の雨にも。
 決して負けない。
 大きな緑の葉は、よりいっそうの艶を放って輝きます。

 ベンチも砂場も滑り台も。
 みんな雨に濡れて、ずぶ濡れの二人と同じ姿をしています。

「かぜひいちゃうかな」
「しおんがかぜひいたら、おれがみまいにいく」
「じゃあ、こうまがかぜをひいたら、ぼくがおみまいにいくね」

 二人揃って風邪を引いたらどうする気でしょうか。
 二人は同時にその考えに思い至って、目を見合わせて笑い出しました。相手が何を思っているかなんて、言葉にしなくても分かります。
 それは、自分と同じはずだから。

「「かえろうか」」

 二人一緒に云いました。
 微笑み合って歩き出します。
 繋いだ手はそのまま。


 二人は家路に着くのです。


 今日は雨が降っていました。
 傘はなく。
 けれど、つないだ手があたたかい。

 そんな、ある日の出来事。










ぴちぴち ちゃぷちゃぷ らんらんらん











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 あとがき +------------------------------------------------------

 「こいのぼり」も「かしわもち」もできませんでした。ひらがなシリーズはネタに困らないのでラクです。でも二人の性格はどうしようもないほどに変わっているので、好き好きが激しいかな〜とか…心配。
 ご意見ご感想ありましたらぜひお寄せくださいです---2003/06/01

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