□ たなばた □
ささのは さらさら
「お互いが気に入るだろうって、引き合わせておいて、常に一緒にいることを望んだら引き離すなんてさ。なっとくいかねぇよな」 唇を尖らせて、不貞腐れたように云ったのは、黒髪に紅玉の瞳の鮮やかな少年でした。なんにでも難癖をつけずにはいられないこの天邪鬼な少年らしいその発言に、相対している少年がくすりと微笑みます。 流れるような蒼銀色の髪に紫水晶の瞳の少年でした。 前者の少年は紅真くん、後者の少年は紫苑くん。二人は同じ年齢の、いわゆる幼馴染です。 「でも、それじゃあおまつりができない」 「紫苑はおまつりが好きなのかよ」 さも意外だとでも言いたげな紅真くんに、紫苑くんは澄まして答えてみせました。 「べつにおまつりが好きなわけじゃないよ。ただ、他のみんなはおまつりさわぎが好きなだけだし、みんながのんでさわげる機会を、わざわざとりつぶす理由はないと思っただけさ」 「楽しければそれでいいってやつか?」 「みんなが楽しめる世界は、それだけで守る価値があるよ」 いささか大人びた感じのする会話をしながら、二人の声音はどこかたどたどしさが抜け切れていません。まだまだ発音がしっかりしていないのです。 だって、二人は今年ようやく、四つの歳になったばかりなのですから。 「でもさ、おりひめとひこぼしのやつも根性なしだよな」 「根性なし?なんでだ?紅真」 「だってよ、そんなに好きなら、お互いが大切でしょうがないならさ…ただ泣きくれて悲嘆にくれてないで、なにを犠牲にしてでも、会いにいくのがあたりまえじゃないのか。―――俺だったら、俺だったら、天地にあまねく神々を脅してでも、会いに行く」 「悪魔と取り引きして…とは云わないところが、紅真らしいな。―――紅真は、だれか、そうやって会いたい人が、いるの?」 ずっと一緒にいたくて、なにを犠牲にしてでも会いたい人。 紫苑くんは、紅真くんにそんな人がいるなんて考えたこともないし、話に聞いたこともなかったので、ちょっと意外に思って訊ねてみました。 お互いのことで知らないことは何もないと思っていた紫苑くんは、自分の胸が少しだけ重苦しく、痛んだような気がしたけれど、口にはしませんでした。本当は、紅真くんに、自分以上に気になる人がいるかもしれないということに心が沈んでいたのですが、紫苑くんはそのことに気がつかなったし、そんなことを口にするのは、なんだかはずかしくて、物悲しくて、淋しくて、できなかったのです。 「……べつにいねぇ、と、思うけど…」 紅真くんは言いよどみました。 自分でもなんといって云いかよく分からなかったからなのですが、それでも、紅真くんは紫苑くんがそれについて言葉で云うよりもずっとたくさん気にしていると感じ取ったので、一生懸命言葉にしようと口を開きます。 「べつに、いま、そうやってあいたいやつなんていねぇと思うけど…でも……」 「でも?」 「ずっと、会いたいと思ってて、ずっと、一緒にいたいと思ってる人がいたような、気がして…でも、今は一緒にいられてるような気がして…だから、今は、会いたい人がいなくて……」 「紅真」 「……」 「もう、いいよ」 紫苑くんは言いました。 紅真くんは、いつだって、紫苑くんに全力で答えてくれるのです。ならば、紫苑くんは、それ以上を求める必要はないのです。 紫苑くんが求めなくても、紅真くんは、自分の持てる力のすべてで、答えてくれるのですから。 そして、紫苑くんもそれは同じことなのですから。 「やっぱりさ、紅真」 「ん?」 「おりひめとひこぼしには、もう少し、根性見せてほしいかもね」 「……だろう?」 紫苑くんと紅真くんは、心からの笑顔で、笑い合っていました。 夜の世界を二つに分ける天の川があって。 生きたものは決して渡ること叶わぬその川の対岸に相対して、二人の愛し合う若者がいた。 どうしても愛する人に会いたい若者は、その剣を抜き放ちこう云った。 たとえば死んでしまって会えるのならば、ためらうことなく会いに行こう。 魂を川の向こうへを渡らせることのできる愚鈍な神々よ。 私の魂を運べ。 お前のその咽に、この剣(つるぎ)の切っ先を、くい込ませたくないのであれば。 それは、遠い昔の物語り。 愛し合う若者は、なにを犠牲にしても、誰を不幸にしても、自分の願いに忠実に―――。 |
おほしさま きらきら
----+ あとがき +------------------------------------------------------
なんか考えてたのと随分違う話になりましたが、まあ、いつものことです。 紅真と紫苑は輪廻転生して、ずっと一緒にいるんです(この場限りの設定?) ご意見ご感想ありましたらぜひお寄せくださいです---2003/07/03 |
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