+  ちょこれ〜と +






大好きなあなたへ










 甘い甘いお菓子は、いつだって子供たちの人気物です。
 その中でも「特別の贈り物」としてたくさんの人に愛されているのがチョコレート。甘い甘いそのお菓子は、とろとろに溶けてしまいそうな甘やかな心を形にしたもの。
 今日は、バレンタイン。


 紫苑くんと紅真くんはなぜか台所の前に立っていました。色違いでおそろいのエプロンをつけて、二人揃って苦虫を噛み潰したような表情です。
 二人の前にはこれから作るお菓子の材料と道具。どれも二人がここに来たときには準備万端整っていたものです。
「なんだよ、これ…」
「何って、チョコレートケーキの材料に決まってるでしょ」
 紅真くんの独り言に律儀に返してきたのは、二人よりも二つ年上の幼馴染のお姉さんで今二人がお邪魔しているお家の長女、壱与ちゃんでした。壱与ちゃんは紅真くんや紫苑くんがつけているものよりも女の子らしいデザインのエプロンをつけています。
「じゃなくて、なんでおれらがこんなものをまえにしなきゃなんねぇんだよ!!」
「うふふ。二人ともまだ小さいから知らないでしょうけど、今日はバレンタインデーっていって、チョコレートを好きな人にあげる日なんだから」
「……知ってる」
 頭がから湯気でも出そうな勢いで怒鳴る紅真くんに、ウインクつきの解説で返す壱与ちゃん。それに半眼で突っ込む(?)紫苑くん。三者三様の反応でした。
「あ、紫苑くんは知ってた?じゃあ話が早いわね」
「……バレンタインは女の子が好きな男の子にチョコをあげる日だってきいた」
「そうだぞ!!なんで男のおれらがチョコのざいりょうを前にしてエプロンなんてぶら下げてなきゃいけねぇんだよ!!」
「女の子があげるっていうのは日本だけのことなんだよ。もともとのバレンタインは男女問わず好きな人に贈り物をする日なんだから」
「じゃぁべつにチョコじゃなくてもいいんじゃ…」
「でもここは日本!!バレンタインっていったらチョコだよね!!」
「…だったらおれたちがここにいる必要はないんじゃ…」
「男女平等!バレンタインのチョコは青少年期の夢!」
「……」
 紫苑くんの非難はことごとく壱与ちゃんの勢いに無視されました。
 紫苑くんも紅真くんも、なぜかこの幼馴染のお姉ちゃんには逆らえないし、勝てないのでした。


 チョコレートケーキを作る!!とはいっても、三人ともまだまだ小さいので、お店で売っている出来上がったスポンジにチョコレートを溶かして塗って、好きにデコレーションする程度しかできません。壱与ちゃんはスポンジからすべて手作りにしたかったようですが、危ないからダメ!と、お母さんからストップが出されてしまったのです。
 ちなみに、壱与ちゃんたちのお母さんたちはダイニングと仕切りなしで繋がっているリビングの方で子供たちの様子を見守っています。彼女らの本音を言えば、お菓子作りでケーキのスポンジなんて作ったらその後の掃除が大変だからダメ!!といったところでしょうか。壱与ちゃんのお母さんはもうすでに、そのお掃除を思って苦笑しています。紫苑くんと紅真くんのお母さんも同様です。せめてすぐそばで手を出して――もとい、手伝わせてもらえればいいのですが、そこは壱与ちゃんが断固として譲りません。
「今日は私たちだけで全部やるの!!」
 と、おませな少女は溢れるやる気で母親たちを突っぱねます。しっかりしすぎているのも困りもの、といったところでしょうか。
 そんなお母さんたちの胸中を知る由もなく、三人はお菓子作りに取り掛かります。
「ゆせんでチョコをとかすのよ」
 壱与ちゃんはテキパキと弟分の二人に指示を出します。
「ゆせんってなに?」
「…えっと、お湯でとかすことだったはずだけど」
「お湯で?チョコの中にいれちゃうのか?」
「すっげぇまずそう…」
「う〜ん…」
 「湯煎」とは、容器の中に暖めたいものを入れて容器ごとお湯で温めることですが、三人はいまいちよく分かりません。「ゆ」とあるからにはお湯を使うはずです。しかしお湯をチョコレートの中に入れれば、チョコは解けますが間違いなく食べられたものじゃなくなります。
 壱与ちゃんはとうとう白旗をあげました。素直にお母さんに聞きにいきます。
 第一段階からの躓きにより、早々に呼び出されたお母さんたち。壱与ちゃんはとりあえず「湯煎」の方法だけを聞くつもりでしたが、はじめからお菓子作りに積極的でなかった紫苑くんと紅真くんの積極的な要望で、けっきょく始終お母さんたちに手伝ってもらう形になってしまいました。
 溶け易くするためにチョコを刻みたいけれど、チョコは固くて子供の力とテクニックではそうそう容易ではありません。けっきょく、それもお母さんたちにやってもらいます。溶けたチョコをスポンジに塗って思い思いのトッピングをして。
 ちょっと見た目は悪いけれど、なんとかチョコレートケーキの完成です。
 三人のエプロンは飛び散ったチョコやデコレーション用のトッピングなどでしみだらけ。お母さんたちの杞憂は現実のものとなってしまいましたが、たまにはこんな風に子供たちとお菓子を作るのも悪くはありません。
 円(まる)は幸せの象徴。丸いケーキを切り分けて皆で食べるのは、幸せを皆で分け合うということです。
 切り分けたケーキは、その一口(ひとくち)一口がほんわかと温かみに満ちたやわらかな甘さを口の中に広がらせ、それは体中に浸透していきます。
 外は天気が良くて、この季節にしては珍しいくらいに温かな午後でした。


「で、壱与?なんでおれたちまでチョコなんて…」
「ん?…だって、わたしは紫苑くんも紅真くんも好きだし」
「ちっともわからない」
「紫苑くんは、わたしも紅真くんも好きでしょ?」
「まあ…それはそうだけど」
「紅真くんは、わたしも紫苑くんも好きだし」
「紫苑はともかく、てめぇは別に――」
「だから、いいじゃない」
 紅真くんの反論は最後まで言わせずに切って捨てられました。
 壱与ちゃんは笑顔で云います。
「みんなで、チョコを送り合おうよ」
 弾むその声に、壱与ちゃんの茶色の髪もまた弾むように揺れました。










この思いを詰め込んで









----+ こめんと +----------------------------------------------------

 チョコは貰ってばかりのゆうひです。今日も貰って終わりました。こっちからもちゃんと贈れよって感じですね。「バレンタインデーに自分が贈る」という行為が念頭にないんで用意も忘れます。
 ちなみに。ゆうひは子供の頃から甘いお菓子が大嫌いでした。幼稚園とかでお菓子が配られると食べられなくて、友人に食べてもらうか以って帰って親に食わせるかのどちらかです。無理して食べると気持ち悪くなって吐きます。今もまぁ、そんな感じです(泣)
 今回のこれは「友チョコ」ですか?(←今朝はじめて知った言葉。お、遅れてますか?/汗)

 ご意見ご感想お待ちしております---2004/02/14

------------------------------------------------------+ もどる +----