私の幸せ
幸せってなんだろう?
どういう状況が幸せなんだろう?
今のこの時は、幸せではないのだろうか?
いつだって。
一緒に、居たい――。
「眠い」 紫苑は呟き、紅真の肩に凭れかかった。 その日、二人は陰陽連支部に近い森に来ていた。 二人の方術の師であるシュラが所用で外出している為、 二人は自主訓練の為にこの森を訪れていた。 二人が陰陽連に来て、数ヶ月目の事である。 紅真と紫苑。二人以外に、そこには誰もいなかった。 「なんで、わざわざ今 寝るんだよ…」 紅真は片手で顔を抑えて項垂れた。 紫苑と紅真はとある樹の根元に並んで腰を下ろしていた。 実はこの二人。 朝、森に来てから、方術の訓練など一度もしていない。 シュラが出かける前に二人に課せた課題の訓練を、二人はすっぱり無視しているのだ。 「最近寝不足だったんだよ」 紅真の文句に、紫苑はもう目を閉じてしまって応えた。 文句を言いながらも、紅真は自分の肩に凭れてくる紫苑を、決してどかそうとはしなかった。 むしろ柔らかな微笑を浮かべて見つめている。 「だからって…。せっかくシュラの野郎が出かけて、二人だけになれたってのに…」 紅真は拗ねるように言って見せた。 紫苑のやわらかな髪を撫でるように、優しく梳く。 その心地良さに、紫苑は先程よりも身体から力を抜き、更に紅真に凭れかかる。 肩に掛かる重みと、そこから伝わる暖かな体温に、紅真は我知らず笑みを深くする。 「何ヶ月ぶりなんだぜ?こうやって二人きりになったのは」 「分かってるさ。でも、その間なかなか自由になれなかったから、良く眠れなかったんだよ」 いつも監視されているような感覚に、安眠が妨げられる。 久しぶりに心許せる相手と二人だけになって、気が緩んだ。 紫苑は言外にそう言った。 「…シュラに訓練さぼってたこと知られたら、大目玉だぜ?」 紅真がにやりと笑ってそう言うと、 「あんな基礎的な訓練。やろうとやるまいと絶対にばれないさ」 紫苑はあっさりとそう言い捨てた。 「まあな。どうやら今日は、監視用の式神も置いていかなかったようだし…」 式神がいたら、紫苑とこんな風にしゃべったりしないけど。 と、胸中で付け足す。 「方術は高等技術――更には奥義に至るまで完璧に会得しているだろ」 高い力を得るための訓練も必要であるが、心休めるときも必要だ。 方術の強さは心の強さに左右される。 常に心穏やかにしておかなければならない。 「せっかく紅真とゆっくりできるんだ」 のんびりしたい。 紫苑はそう言うと、静かな寝息を立て始めた。 「まぁ…。いいけどな」 紅真は、まるで母親が子供をあやすように紫苑の頭をそっと撫でた。 自分達の国が滅ぼされた。 それは、変えようのない運命。 生まれた時から方術のすべてを叩き込まれ、来たるべき時の為に力を蓄えてきた。 国が滅ぼされた時に、たった一人で生き残っていけるように。 道を、間違えぬように。 謀略や策略に翻弄されないように。 (七つ星の先見は絶対運命だからなぁ…) 紅真は胸中で呟いた。 彼の生まれた国にある未来を知るための先見。 先見の結果は変えようのない運命。 高天の都が開封される 高天の都の封印が解ける時、国が滅びるのは運命の一齣。 紅真の国然(しか)り。 紫苑の国然り。 「でも、これはこたえるよなぁ…」 紅真は再び溜め息をついた。 高天の都をの封印を解く鍵は、自分達にある。 だからこそ、自分達は冷静に物事を見定めなければならない。 冷静で公正な判断のもとに見極める。 「何がこたえるんだ?」 紅真は独り言に応えが返ったことに、些かうろたえた。 「し、紫苑…。起きてたのか?」 「うとうとはしてた」 紫苑は目元をこすりながら言った。 眠いことには代わりないらしい。 「で、何が応えるんだ?」 紫苑が再び訊ねると、紅真はしぶしぶといった感じで口を開いた。 「…いや、陰陽連だとかさ、その他いろんなもんを騙すのは別にいいんだけどさ」 「いいのか?」 「いいんだよ。だけど、紫苑と見ず知らずを装うってのがな…けっこう辛い」 しかも親しくなっちゃいけないなんて…。 「何でなんだよ。紫苑」 紅真は納得しかねるといった口調で訊いた。 どこか抗議じみた。拗ねるようなその口調に、紫苑は微かに笑みを零す。 口を尖らせて言う紅真は、陰陽連で常に装っている冷酷な少年からは想像もつかない。 「他の奴等はどうだか知らないがな…。 シュラは間違いなく高天の都の開封の秘密を知っている」 だからこそ、刻印の心具を受け継ぐ者の国を滅ぼし、 尚且つ何も知らないであろう王家の子供を陰陽連に引き取ったのだ。 何も知らない子供達を利用する為に。 「俺とお前に繋がりがあるとばれてみろ。 俺達が何も知らないという部分からして疑われかねない」 「でも、親しくなるのは平気じゃないのか?」 「ダメだな。親しくなると云うことは、根本的な部分で考えが重なり合うと云うことだろう? それだとどちらか片方が陰陽連を裏切った時に、 もう一人もその裏切りの理由に同調してしまう可能性がある」 「絶対そうとは限らないんじゃないのか?」 紅真の意見に、紫苑は首を横に振った。 「周囲は――特にシュラは、俺達が親しくなれば絶対に怪しむ。 なまじ俺達の境遇を知っているだけにな」 そうなれば、理由をかんぐってくる輩(やから)も出てくるだろう。 「これからどういう経緯で裏切りを実行するかは定かではないんだ。 ヘタな設定を作り上げすぎない方がいい」 つく嘘は至極単純。 何も知らない。 何の関わりもない。 ただそれだけ。 「でもよぉ…」 尚も抗議をしてくる紅真に、紫苑は再び呆れたような笑みをした。 凭れ掛け続けていた紅真の肩から顔を上げると、ひょこっと、紅真の顔を覗きこむ。 いきなり紫苑の顔が目の前に来たことに、紅真は顔を一気に朱くした。 「なっ?!」 「二人だけの秘密だ。それが不服か?」 慌てふためく紅真に、紫苑は微笑を浮かべて言った。 紅真は声が出せず、尚も慌てたまま、ただ思いっきり首を横に振る。 「たまにはこういう風にもできるんだ。それだけで、俺はかなり嬉しいけど?」 決別ではない。二人だけの時間がある。 それだけが、とても嬉しいと思える。 「お、俺だって!」 紫苑の言葉に、紅真は勢い込んで叫んだ。 そんな紅真の様子に、紫苑は声を立てて笑う。 もう日が暮れる。 朱く染まり始めた天(そら)に、二人は腰を上げた。 「帰るか…」 「途中までは、一緒に行ってもいいだろ?」 紫苑の台詞に、紅真が訊ねた。 紫苑は暫らく考えるように紅真の顔を見つめた後――。 「…そうしたいからな」 柔らか笑みと共に応えた。 |
二人だけの秘密
二人だけの思い
二人だけの記憶
全部、私の幸せ
おわり
■あとがき■
ただ甘々な紅真と紫苑が書きたかっただけです。
設定は「夏夜の気配」と同じです。
年齢は違うけど…っていうか、紅真と紫苑いくつよ?
八歳くらい…だよね(汗)。
う〜ん。なんかもうエセばっかり書いてますね。
キャラが崩れまくっていてすみませんです(泣)。
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