+ 一振りの剣 +



















死ぬことを覚悟した人間は強い


だが、生き抜くことを覚悟した人間はもっと強い



























 風が吹き抜ける。
 冷たくも、暖かくもない風だ。どこか肌寒く、そして身を柔らかく包む暖かい風だった。
 紫苑は空を振り仰いだ。
 白い。白過ぎるとも思える雲が、深い深い紺碧の空を流れている。ゆっくりと流れる雲は、まるでこの世にはなんの問題もないかのような。どこか、世界からかけ離れたものであるような…そんな思いを抱かせた。

 冬と呼ぶには暖かすぎて、春と呼ぶにはまだ寒すぎる。そんな、中途半端な頃だった。
 春咲きの花々はまだ咲かない。けれど、確実にその蕾を膨らませて生きている。
 暖かくなると思うと、またすぐに冷たい風が吹き荒(すさ)ぶ、気まぐれなこの季節。こんな季節に花開く種たちが、その瞬間を夢見て身の内に力をため、静かに息づいている。
 紫苑は自分の周りに鬱蒼と繁る木々から感じるそれらの強い息遣いを感じていた。

 鎮まぬ力。

 身の内にためられていく、静かながらも強い力。
 紫苑はそれまで閉じていた瞳を、静かに開いたていった。

 写るのは葉もついていない木。そして、そこから覗く空。雲。
 風が吹いた。

「伸びたな……」

 紫苑はぽつりと呟いた。
 たいした意味はなかった。
 ただ、風が吹いたときに気が付いたのだ。
 風に流される自分の白銀の髪。随分と、伸びてしまった。

 髪はいつだって伸びる。今までだって伸び続けてきた。
 彼がどこを取って己の髪が伸びたと感じるのか。それはあの時。

 あの時。

 生い茂る木々の葉。緑の息吹き。朝露を弾いたような輝き。溢れる生命力はあまりにも力強く、その見を飛び出して周りにまでその力を分け与える。
 希望。
 そんな明るい瞳を持った、少女に出会ったあの時。

 あの時から、自分の髪は随分と伸びた。
 それだけの時が、流れた。

 枯れた木々が復活の息吹きをあげる。
 湧き立つ力。
 思い出すのはあの…森の中。

 この小さな島は、どこもかしこも気に囲まれている。鬱蒼と繁る木々の群れ。見渡せば木。木。木。
 森。
 けれどすべてが違う。同じ森は一つもない。同じ木は一本とてない。
 身の内から溢れてくる力を感じ取る自分には分かる。
 同じものは何もない。

 そして感じる。

 それでも、その内にある力強さはどれも皆同じ。


 思い出すのはあの森。
 君を感じたあの森。

 たとえこの命が消えようと。
 君を、君の夢を守ろうと思っていた。そう、決意していた。
 初めて触れ合った時。初めて君の夢に触れた時。君の決意に触れた時。
 君の声を聞いた時に。

 けれど。
 けれど君の思いが聞こえてしまったから。とどいてしまったから。
 君が、僕を信じていることを感じてしまったから。

 少し…酷いと思う。

 それまで僕の中にあった価値観を壊していく君。
 守る。
 その為に命をかける。
 自分の命など、どこまでも小さいものだとして、自分にとってもっとも譲れぬものを守る。守りぬく。

 その価値観を壊して。

 君が信じているから、僕は裏切れなくなってしまった。
 君のために、この未来(ゆめ)のために、僕の守りたいすべてのために、この命を掛けられなくなってしまった。捨てられなくなってしまった。

 これからは。
 生きて、何がなんて生き抜いて。夢(きみ)を、守ろうと思う。

 生きて、未来を見ようと思う。


 君に、帰ろうと思う。




 風が吹き抜ける。
 暖かくもなく、冷たくもなく。春と呼ぶには寒すぎて。冬と呼ぶには、その日差しはあまりにも暖かすぎて。そんな中途半端な季節をそのまま乗せたかのような風。

 そんな風に吹かれて、木々が息吹きを上げる。
 彼の銀色の髪がなびく。

 中途半端な季節。
 それは、いくつもの物の境目。

 力強い息吹き。
 身の内から湧き立つ力。
 消え行くもの達。

 紫苑は空を振り仰いだ。その硝子のように美しい透明な瞳には、欠片の迷いもない。
 空はどこまでも青かった。雲がそのかたちを少しずつ変えながら、ゆっくりと纏わりつくかのように流れる。それは、この青い星に命が生まれる遙彼方からよりも同じように巡ってきたもの。
 この雲と同じように、ゆっくりとかたちを変えていくぼくら。

 その未来を見る。
 生きて。

 迷いはない。

 吹きぬく風に、白銀の髪が流れた。随分と伸びた髪。
 いくつもの境を越えて、ぼくらはぼくらの未来(ゆめ)へと辿りつく。そして、その先へと手を伸ばす。
 また、かたちを変えてゆく。

 その先にあるもののすがたなど、まだなにもわからないままに。




























泪を振り切って微笑う
君の元へと変える為
僕はいつだって
この剣(つるぎ)を振るおう

あるものの姿は希望か…それとも……






















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こめんと *----------------------------------------------------------------


 初めて邪馬台幻想記で紫苑×壱与めいたものを書いてみました。壱与でてこないし、別に分からないとも思うのですが…そう思って読むとそう感じられなくもない?(汗)
 たしか、今日の新聞で縄文時代から戦争が起こっていたかもしれないという可能性を
考えさせられる発掘が見つかった。というものをみました。あくまでも可能性で、必ずしもそうだったとは云えないしむしろそうでない可能性の方が大きいのかもしれません。けれど、その可能性はあるのです。
 邪馬台幻想記は弥生時代の物語りですが、争そいあうのはいつの時代も(今現在も)変わっていないのです。
 それぞれが、自分の夢見る未来の為に戦っているはずなんです。その時に振るう剣の形は人それぞれで、そのまま武力であったりそうでなかったり。自分の心の中に立てた一振りの剣を振るって、きっと人は生きているのだと思います。
 地球もそうなのだと思います。
 ならば、地球が別の剣を選び取る可能性もあるのだと思います。戦えば剣は綻びることもあるとも思います。
 信じた夢。その先にまた手を伸ばす。その為にまた剣を振るう。
 そうなった後に、私達はどんなカタチになるのでしょうか。私達の未来は、どんなものになるのでしょうか。
 ……気がついたら2、3行で(しかもギャグで)終わると思っていたあとがきがこんなことに(滝汗)

 ここまで読んで下さった方、いましたら本当にありがとうございました。意味の分からない駄文ですみません。
 ご意見ご感想もらえると嬉しいです。


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