+ 言葉 +
伝えなくちゃ
この国には文字が無い。 あるのは借り物の文字。 だから、この国の言葉でこの自分の思いを伝えたい時。文字というのは酷く不便だ。 でも伝えなければ伝わらない。 想いというのは酷くもどかしく、言葉では想いのほんの一部しか伝えられない。でもそれでも。 伝えなくちゃ、伝わらない。 だから話そう。 精一杯話そう。 もっとたくさんたくさんいつだってお話しよう。 聞かせて。 君のこと。 はらはらと木の葉が舞っていた。 一枚一枚数えて、そして集めたら…。なんだかとても大切なものが出来そうな気がする。 「紫苑くん、何してるの?」 声を掛けたのは茶に翡翠の瞳の溌剌とした印象の少女だった。 名を壱与。邪馬台国の女王。 「木の葉を見てた」 少女の問い掛けに応えたのは、白銀色の髪に紫翠色の瞳の少年だった。 少女よりは僅かに年下か。彼の名は紫苑。少女の護衛だった。 「木の葉?」 壱与は不思議そうに小首を傾げた。 紫苑は時々、こうやってどことも知れずにぼんやりと遠くを眺めていることがある。空や、雲や、ただ目で見るだけでは見えないどこかを。 「木の葉が舞ってるだろ?壱与の上にも降りて来た」 彼女は自分の肩の上を滑っていった木の葉の一枚に視線を向けた。 なんという特別なものではない。緑色の葉。 「音が言葉になったのは、いつだろうな。なんとなく感じた時に出た音をみんなで共通できる言葉にしたのは、誰なんだろうな」 「紫苑くん?」 「きっと、音はこの木の葉みたいなものなんだと思うんだ」 はらはらと。 舞い落ちる木の葉。 一枚一枚拾い集めて。 「音を拾い集めて、言葉にするんだ。ただ楽しくて笑って出しただけの音が、「楽しい」って言葉になるだけで、みんなと一緒に笑える」 楽しいね。 そう云われるだけで、幸せになれることがある。 そう云って、笑い掛けられるだけで、自分も笑うことができるようになる。 「痛いとか、哀しいとか。云ってもらえれば、勘違いもしないではっきりと気が付くことができる。気がついてあげられる」 言葉も無く心を通わすことは、難しい。 長い長い時間が必要だと思う。 共通の想いが必要だと思う。 だから、言葉を。 「ありがとう。って」 「え?」 「伝えたかったんだ」 そう云って、紫苑は微笑んだ。 自分をを見つめているその柔らかな表情に、壱与は驚いたように目を丸く見開いて。 それから自分も笑った。嬉しかったから。 「うん。私も伝えたいよ」 「ああ。いろんな人に伝えたい」 「うん。いろんなものに伝えたい」 そして。 誰よりも。 何よりも。 「「ありがとう」」 君に。 あなたに。 伝えたい言葉。 木の葉が舞う中で、二人は微笑んだ。 嬉しい気持ちを伝えたい。あなたも嬉しくなるように。 哀しい想いを伝えて欲しい。あなたが一人で抱え込まないように。 寂しい時は呼んで欲しい。邪魔でないならあなたの傍にいたいから。 辛い時にはそう云って。気が付かずにいるのは嫌だから。 教えて。 あなたのこと。 聞いて。 私のこと。 今、私が笑っていられるそのわけを。 今、あなたが微笑んでいるその理由を。 たとえ言葉にせずとも伝わったって。 あなたの声で、あなたの言葉で聞きたいの。 私の声で、私の言葉で伝えたの。 この気持ち。 この風に舞う木の葉にのって。 私の言葉。 あなたの言葉。 私達の言葉。 飛んでいけ。 伝えたい言葉。 伝えたい想い。 全部全部。 飛んでいけ。 そして届け。 あなたのもとへ――――。 |
あなたの言葉でもっと
伝えて欲しいの。私に
----+ あとがき +-----------------------------------------------------
これまた短い。 本当はオールキャラで何か書こうかと思っていたのですが(できればギャグとか)結局こうなりました。すみません。時間がなかったもので…。 それにしてもこれは一体いかがでしたでしょうか? 短いので所要時間も短いです。 考えて、書く。全てひっくるめて20分くらいかな? ご意見ご感想とか貰えたら嬉しいです。 |
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