+ たとえばこんな日常 +










すれ違う人たち
交わり合う人たち












 空は快晴。風が心地良い。そして響き渡る喧騒……。

「壱与っさ〜ん!」
 風に吹かれて流れる草は緑に萌え、そこを手を振りながら駆けて来るのは黒髪に黒い瞳の少年だった。
 彼の名前はレンザ。倭国に数ある小国の一つ、伊都国の少年だ。そんな彼が目指しているのはただ一つ。後もう少しで辿りつく…と、いうか、もう辿りついたも同然のその時。

 ズイッ。
 レンザの前に大男が立ち塞がった。

 急停止してなんとか衝突を免れながら、レンザは鋭い視線を上に向け、立ちはだかる相手の顔を見返して怒鳴る。

「何すんだよ、急に出てきたら危なねーだろっ!!」

「知らんな」

 横柄な態度でふんぞり返りながらレンザを見下ろすのは邪馬台国総隊長のヤマジだ。背後に立ち込める黒い雲はいったいなんなのか。

「どけよな、俺はてめぇじゃなくて壱与さんに用があるんだよ」
「壱与様は御政務中だ。貴様のような奴と会う暇はない」
「んだとッ、こっちだって伊都国からの使者でわざわざ来てやってんだぞ!!」
「伊都国からの使者ならさっき来たばかりだ!!このスケベ男!!――お前みたいな奴を壱与様になんて近付けられるかっ!!」

 二人の加減知らずの声は邪馬台国中に響き渡りそうなほどだ。
 内容も内容。怒鳴り合っている人物もそれなりこの国では名が知れている。
 当然の如く興味に惹かれて野次馬は次々と集まり、気が付けば二人を取り囲むように人垣ができていた。

 しかしそんなことはお構いなしのこの二人。
 周囲の面白おかしそうな視線にも気がつかずに恥さらし―――もとい、怒鳴り合いを続けた。

「ハン!(←鼻で笑った)てめぇー、もしかして壱与さんに惚れてんじゃないのか?そんなに剥きになるなんて怪し過ぎるぜ」

「な、何バカなこと云ってんだ!!壱与は俺にとったら娘みたいなもんだぞ!!」

「なに本気でうろたえてんだよ。まさか図星か?冗談だったのに。…ってか、壱与さん娘って…。妹じゃねぇのか?あんた、実はそんなに年寄…ゲフッ!!」

 レンザの最後の言葉は、顔を真っ赤にしたヤマジに彼の側頭部に筋肉の盛り上がったヤマジの拳がヒットしたことによって途切れた。
 レンザとて決して弱いわけではない。それなりに武術の心得もある。
 駄菓子菓子。…間違い。だがしかし、全身筋肉男が全力で直接与える衝撃には、やはり沈むしかなかったらしかった。

 しかし忘れてはいけない。
 彼は恋する男。愛に生きる男。
 愛する人に会うためならば、たとへなんだか尋常でない感じに見えなくもない大量の血が頭から流れ出ていても、気合で起き上がるのだ。

 彼が腕立て伏せの要領で起き上がると、周囲からは感嘆のざわめきが巻き起こった。
 レンザはヤマジに不適な笑みを向ける。

「ふッ…男の嫉妬はみにくいぜ」

 普段のあんたに云ってやりたいよ。
 という突っ込みが人々の心の内(うち)に起きたかどうかはさておき、ヤマジの目ももはや(いや、初めからか?)据わっている。

 これから世にも情けなくくだらない第2ラウンドが始まることは容易に知れるところであった。





 さてその頃。
 ここは邪馬台国内でもっとも大きな邸。
 国の政務は全てここで行なわれ、さらにこの国の要(かなめ)たる女王の邸宅でもある。

「あっ、紫苑くん♪」

 高く澄んだ声はどこまでも明るかった。
 まるで、この空の上に燦然と輝く太陽のように明るく、そして鈴の音のような声だった。
 それは風にのって緑の草の上を走り、彼女の目的の人へと届けられる。

「?何だ、壱与」

 声に振り返ったのは銀の髪に藤色の瞳の少年だった。
 声の主――邪馬台国女王壱与――よりも更に歳若いその少年は、そのほっそりとした体格からは考えられぬ強さを秘めた彼女の護衛だ。名は紫苑。
 紫苑は不思議そうな表情をかくしもせずに壱与に視線を向けた。

「えへへ。ねぇ、すっごい、いいお天気だし、これから二人で釣りにでも行かない?」

「は?…」

 壱与は嬉しそうに紫苑の元に駆けて来ると云った。
 云われた少年は目を丸くして、間抜けな声を出す。

「…壱与、お前、仕事の方はいいのか?」

 またナシメ――壱与のお守り役…もとい、教育係兼お目付け役で邪馬台国の内政の実質的権力者――の胃に穴を開ける気か?
 と、云いたげに半眼で返した。

「大丈夫だよ〜。ね、行こ行こ。決まり!!」

 壱与はまるで紫苑の言葉など聞いていないかのように――しかし間違いなく良心は痛んでいるであろう。僅かに笑顔が引き攣っている――紫苑の腕を引きずっていく。
 苦笑しながらも彼女に付いて行く紫苑の姿を、誰かが笑顔で見守っているだろうことは…また、別のお話。

 とにもかくにも。
 少女は実に嬉しそうであった。





 ああ、愛に生きる男レンザ。彼はその美しい翡翠の瞳に写ることができるのか。
 春は、未だ遠い。














蒼い空
人々の響き渡る声
それが平和の象徴










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 あとがき +-----------------------------------------------------


 ミュール様に捧げます。20000hitキリリク小説です。
 リク内容は邪馬台幻想記小説「レンザとヤマジ隊長のギャグ話」でした。
 
たいへん、たいへん、たいへん!!お待たせ致しました。
 にもかかわらず短いです。
 そしてレンザとヤマジ隊長。あんまりでてきてません(爆)
 本当に申し訳ありませんでした!!
 たいへんずうずうしとは思いますが、こんなものでも頑張って書かせて頂きましたのでもし宜しければ貰って下さい。
 そして煮るなり焼くなり好きにしちゃってくださいです!!

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