+ uta +











僕と君の帰る場所













 それは、いったいいつ生まれたのだろう。
 こんなにも心が弾むもの。
 こんなにも胸に響くもの。

 ウタ

 それは、いったいいつ生まれたのだろう。





 邪馬台国。
 男の王を立てず、巫女による神託にそって政(まつりごと)を進めることにより内乱を治めた国。多くの賛同を得、更に発展を遂げようとしている大国。
 邪馬台国初代女王卑弥呼。
 彼女の語るは神の言葉。神が人々に送る祝福。祝詞。
 それは心に響くもの。

「私はね、神様なんて信じてないんだよ」

 そう語るのは、邪馬台国二代目女王壱与。
 豊かな大地色の髪と、光り輝く木々の葉の色を封じたかのような瞳と。あとはもう、彼女自身の生命力に溢れた桜色の健康的な頬、唇。太陽を祭る国の女王に相応しい、健康的な肌。
 彼女は誰よりも生命力に溢れていた。いっそ、健気なほどに。

「私はね、道は誰かに切り開いてもらうのでも、誰かに導いてもらうのでもなくて、自分で選んで、自分で切り開いて、それで、自分自身の力で歩いていくものだと思うの」
「同感だな」
「でしょうvv」

 まだ少女といって差し支えないその女王は嬉しそうに笑った。
 彼女の笑顔を導き出したのは、女王よりもまだいくつか幼いであろう少年。女王の…いや、壱与という名の少女の、護衛だった。

 少女とはまるで正反対の、対極にいるような少年だ。共通点があるとすれば、それは瞳に宿った強い意志の光りだろうか。なにか、凄まじい少年だった。
 少年の名は紫苑。
 少女が太陽の化身ならば、対極にいる少年は月の化身だった。
 流れる髪は銀色に、その瞳は薄い藤の色をたたえ、肌は白く。溢れんばかりに輝く少女の元気や健康的という言葉からかけ離れた、薄い色彩の少年は、しかしその存在感でいえば少女に目劣りしない。

「紫苑くんならそう云ってくれると思ったんだ」

 壱与は嬉しそうに云った。
 彼女の魅力は笑顔でこそ発揮されるのだろうと、その笑顔を見れば誰もが思うだろう。そんな表情だった。

「喜んでもらって云うのは心苦しいけどな、俺は、神は信じてるんだ」
「えっ?そうなの?」

 なんか以外。
 壱与は目をぱちくりと見開く。ころころと豊かに変わる表情も、少年とは対極にあった。

「誰かを助け、導き、守ってくれる神の存在なんて信じてないさ。今となっては、むしろいらない」

 本当に助けて欲しい時はもう過ぎた過去の中。
 そう願ったのも、もう幼いと思える頃。
 今は、自分で歩いて行けると信じてるし、そうしたいと思っている。
 誰かに助けてもらいたいだとか、守ってほしいだとは、決して思えないし、思いたくない。

「でも、俺は方術使だからな。この世界の至るところに溢れる巨大な力の存在には、他の奴らよりも敏感だ」

 草や木や大地に。小さな小石にも、なにか凄まじい力が宿っている。一つ一つが小さくても、それはいつでも唸り声を上げる。纏まる。輝いている。
 神とは、つまりはそういったものなのだ。
 目には見えない、そこかしこに宿っている凄まじい力。眩いまでの輝き。慟哭。

「ふ〜ん…じゃぁ、卑弥呼様は太陽の言葉を聞いてたのかな」
「かもな」
「そう思うと素敵かもv」

 風が流れた。優しい風だった。
 雲が白かった。心も白くなるようだった。

「壱与」
「なに?紫苑くん」

 空を仰ぎ、少年は少女を呼ぶために振り返る。藤色の瞳が優しかった。
 空を仰ぎ、呼ばれて少女が振り返る。穏やかな風のような微笑だった。
 仰いでいた空では、雲がゆっくりと流れていた。
 二人がいる丘の草原に、薄い影がさし、ゆっくりと流れていった。

「うたって、知ってるか?」
「うた?」
「神の詞(ことば)だそうだ」

 それは溢れる生命の詞。
 力ある言の葉。
 それは、命の根幹をカタチにしたもの。

「そっか…だから、卑弥呼様が語る言葉は、心に響いたんだね」

 溢れる生命が、直接訴えかけてくる。
 なにか凄まじい力が、ほんの少しだけ働きかけた。自分を呼ぶ声に、応えた。

「だから、うたは心に響くんだね」

 幸せになる。
 勇気づけられる。
 悔しくて、悲しくて、涙が溢れる。

 みんな、こころがゆさぶられる。

 それが、いのちのちから。

「大丈夫だ。壱与の言葉も、人の心に強く響いてる」
「ふふ。ありがとう。……紫苑くんのそういう優しさ、好きだよ、私」

 明るく照らす命の輝きが優しい。
 静かに黙する優しさが温かい。
 そっと傍にいて寄り添ってくれるだけでも、私達はこんなにも心強いのだ。

 なにか、すさまじいちからに溢れたここに、今、立っている。





 それはいつ生まれたのだろう。
 こんなにも優しくて。
 こんなにも厳しくて。
 こんなにも力強い。

 うた

 僕ときみが今いる。
 今、僕らがいるこの世界に溢れる力のすがた。

 ぼくらが、いつかかえりつくところ。











ぼくらの環(かえ)るところ













----+
 あとがき +-----------------------------------------------------

 Syu様に捧げます。25000hitリク小説です。
 リクエストは邪馬台幻想記小説「紫苑と壱与中心のほのぼのストーリー(コメディ入り全然OK!!)」でした。
 コメディは入りませんでした。そしてほのぼのとは微妙に違うかと思います。
 ほのぼのと聞き、優しい雰囲気のものを書きたいと思って書いたのですが…いかがでしたでしょうか?
 かなりお待たせしてしまって申し訳ありません。こんなものでも受け取って頂けたら嬉しいと思います。
 リクエストありがとうございました。
 これに懲りずにまたいつでもリクエストくださると嬉しいと思います。
 最後に。
 読みにくいレイアウトですみません;;

-------------------------------------------------------+ もどる +----