+ 茜雲。そして森の深くで枯葉は舞い +











 きょとん。
 音で表すのならそんな感じだろうか。空に透けてしまいそうな蒼い瞳をまん丸に開いた彼の表情は、その実年齢よりもずっと幼く見えた。
 そんな表情に見惚れている余裕もないほどに、彼――紅真は緊張に胸を高鳴らせていた。

 紅真の目の前にいるのは、彼と同じ年の少年だった。
 名前を紫苑という。この国では珍しい銀の髪に、藤に近い蒼い瞳の少年だった。

 なぜ紅真が緊張に胸を高鳴らせ、そしてまた紫苑が驚きに目を丸くしているのかといえば…それはつい先刻の紅真のある告白が原因であった。
 その告白とは文字通りのものである。愛の告白だ。

「……誰を?」

 「好きだ」と、簡潔に告げたのが悪かったのか、紫苑がただ単に現実逃避はかろうとしたのか。とにもかくにも紅真の告白時の台詞はただ一言、「好きだ」。そしてそれに数秒の時を経てから返した紫苑の台詞が「誰を?」

 紫苑は紅真に問うたのだ。
 「紅真くんは誰が好きなんだい?」(爆)と。

「なっ、なっ……」
「奈々?」

 そんな名前の女性いたかな?などと紫苑はお約束のボケをかましてくれた。
 紅真はあまりのことに言葉も出ない。
 彼はこう云いたかったのだ。

「何云ってやがんだ、てめぇ!!こんな場面でこんなふうに「好きだ」なんて云ったら、てめぇのことに決まってんだろうが!!!」

 顔を怒りで真っ赤にさせて、紅真はようやく言葉にすることができた。
 たったそれだけのことを叫んだだけなのに、彼は肩で息をしていた。

「俺?」
「そうだよ!!俺は、お前のことが、好きなんだよ!!」

 さも以外だ、とでも云わんばかりの紫苑の表情と台詞に、紅真は一言一言を区切るようにして、はっきりと云った。

「でもお前、俺のこと嫌ってなかったか?」

 紫苑は小首を傾げて訊ねた。きょとんとした表情は変わらない。
 紅真はそんな紫苑の質問に言葉を詰まらせた。その紫苑の疑問はそれはもう当然のことであったからだ。

 二人は(おそらく)孤児である。そして共に陰陽連という組織に拾われて出会った。陰陽連で二人は方術という、今はもう古の戦術とされ扱える者の極限られてしまっている強力な術の使い手として、日々英才教育を受けながら、その組織に従事ているのであった。
 そんな日々を送る二人。
 周囲の認識は力も年齢も拮抗したライバル同士だ。
 しかもどちらかといえば紅真が一方的に紫苑をライバル視して嫌っている…日々突っかかっている、といった感じである。

 紅真は紫苑を嫌っている。
 それは紫苑のみならず、陰陽連にて二人の存在を知っているものすべての人間の認識であるのだった。

 ちなみに紫苑が紅真のことをどう思っているのか。
 それは紅真も含めた周囲の人々誰もが知らない。
 ぱっと見た感じは修行仲間で、同じ組織の人間で〜と云ったふうな思いしかもっていないように見える。これもまた周囲の人間全員一致の見解であった。

「そ、それは…」

 云えない。
 まさか好きな子に対する自分の思いが何なのかわからなくて、あまりのもどかしさに行き場をなくした感情が爆発してただけ…などとは。

 そう。紅真は自分で自分の感情を理解するどころかコントロールすることもできずに、なぜか紫苑が何かしていたり誰かと話していたりするとざわめきだす自分の心にいらいらして、その原因である紫苑に当たっていたのだ。
 心が騒ぎさらになぜか焦りともどかしさを感じ、どうしていいのかわからずに怒りに添加して吐き出していたのである。

「それで、なんで急に好きだ、なんて結論に達したんだ?」
「は?」

 紅真は気がついていない。
 上に書かれてあるすべてのことを実は頭を抱え悶絶しながら声に出していたことを。
 そして紫苑はまったく動揺していない。
 べつに紫苑が紅真のことをなんとも思っていないだとか、紅真の言葉や心をないがしろにしているとかいうわけでは決してない。紫苑は紫苑として、純粋に喜んではいるのだ。
 誰だって、人から嫌われているよりは好かれているほうが嬉しいし気分も良い。

 つまり彼の今の態度は純粋な疑問を、純粋なまでに率直にぶつけているだけなのである。
 それを知ったとすれば、周囲の人間はまたもや驚くかもしれない。なぜなら、彼――紫苑は、感情を表に出さないことで有名であるからだ。
 任務であろうとも私用であろうともそれは関係ない。
 常に言葉少なで、表情が動くことも滅多になく、笑った顔など数ある陰陽連支部の中で常日頃顔を合わせているといっても過言ではない者達でさえも見たものは皆無である。皮肉な笑みすら見せないのだ。いっそ、彼には喜怒哀楽という基本的な感情をも含めた一切の感情が欠如しているのではないかと思わせるほどに、日頃の彼はすべてにおいて無関心で無表情であった。
 もちろん方術の訓練や任務の成功に関しての関心は当然あるが…。

 とどのつまりこのことは、紫苑は自分の感情をさらりと素で出してしまえるほどに、紅真には心を許している証拠なのであるが…悲しいかな。自分のことでいっぱいいっぱいの紅真にはそんな紫苑の真理になど気づけようはずもなかった。

「だから、何で俺のことが好きだ〜なんて結論になったんだよ」

 問われても同じ質問を繰り返すことしかできないほどには、紫苑の質問は要点しかついていないのであった。
 紅真は何が「だから」なのかいまだ気がつかぬまま、慌てて答えようと口を開き…また固まった。

 このままではいけない。と思ったのは本当に最近のことだ。
 紫苑への苛立ちは、紫苑に方術氏としての技量に追いつけない自分自身への苛立ちなのだと思い、今まではそんなどうしようもない苛立ちを訓練と紫苑にぶつけてきた。しかし…何か違うのだ。
必死で訓練を繰り返して紫苑に追いつき、追い越してみたとしても、紫苑への苛立ちは一向に消える気配を見せないのだ。
 追いつき追い越したとはいっても、またすぐに追い越されるためかとも思ったが、どうにも違うような気がしてきた。
 そこで彼は自分の紫苑への感情を整理してみた。そしてそこはかとなく誰ぞに相談し…返ってきた答えはみな一様に同じこと。

「お前、それってそいつのこと好きなんじゃねぇの?」

 つまりは人に指摘されてようやく気がついた。というわけである。
 自分の感情がわからないどころか、人に言われて初めて理解する。それは精神的なコントロールを重んじる方術士としてかなり恥ずべきことだったりする…かもしれない。少なくとも紅真にとってかなり恥ずべき――むしろ一生の不覚なのだ。
 紫苑のことを好きだった。ではなく、自分の感情をコントロールしきれていなかった、という点において。だが、彼を多少なりとも知るものならば何をいまさら…と呆れただろう。苛立ちにまかせて紫苑へ八つ当たりしていたという行為は、まさしく自分の感情をコントロールできていないということなのだから。
 紅真の精神構造および価値基準は、かなり独特であった。

「へぇ…でも、俺も別にお前のこと嫌いじゃないぞ」
「へ?」

 いったい何度同じことを繰り返せば良いのか。
 紅真はまたしても、頭を抱え悶絶しながら告白していたことに気がついていない。
 しかし紅真のそんな疑問は無視された。
 紫苑は紅真のわけがわからないといった様子で見開かれたその真紅の瞳に視線をきちんと合わせてもう一度繰り返す。

「だから、俺はお前のこと嫌いじゃないって」
「……」

 べつに「嫌いじゃない」=「好き」=「愛している」という構図が成り立つはずはもちろんまったくないのだが、かなり危ないまでに混乱の極みに達している紅真の頭の中では成り立った。
 信じられないと無言で目を見開いていく紅真。
 紫苑はそれまでとなんら変わらぬきょとんとした表情。
 向かい合う二人は視線が合っているのに見つめ合ってはいない。
 愛の告白。にもかかわらず、端(はた)から見ればすれ違いまくっているこの二人に気づいているものはいない。なぜなら、この現場にはこの二人意外誰もいないから。そして、この現場を目撃している人物も、当事者である二人以外には誰もいないから。

 絶対に情操教育を誤っているかもしれないのは、この二人の実の両親なのか、はたまた陰陽連の大人たちなのか。
 幸か不幸か。
 それを考えるに及ぶものは誰もいなかった。

 そんなこんなで。
 こんな二人のお付き合いはこうしてはじまった。





 それからいきなり飛んで数日後。
 紅真はかなりいらいらしていた。それはもうフラストレーションたまりっぱなし。
 原因は何か。
 それは…。

「紅真」

 紅真は呼ばれて振り返った。
 そこにいたのは銀の髪に蒼い瞳の少年。云わずと知れた紫苑である。
 そう、彼――紫苑こそが、紅真の欲求不満、いらいらの原因のすべてあった。

 睨み付けるかのような鋭い視線で返せば、紫苑は相も変らぬ瞳で紅真のことを見つめる。なにやら紅真の機嫌が悪いことは感じているらしいのだが、その原因はまったくわかっていないのだろう。目は口ほどにものを云う。紫苑の瞳から「紅真、なに怒ってるんだ?」という疑問符がありありと見て取れた。

 紅真はため息をついた。
 こんな姿さえ可愛いと思ってしまうあたり自分はもう終わりだな…とか思いつつ、でも気分的には全然いやじゃなくて、むしろかなり幸せにひたっている心。自己嫌悪と体が浮かび上がってしまいそうな幸福感という矛盾した思いに板ばさみにされながら、紅真は再びため息をついたのだった。

「なんだよ、紫苑」
「?ああ、今日シュラが急用ができたとかで、訓練が自主訓練になったんだ。お前にも知らせておけって云われたから来たんだけど」
「ああそーかよ、わざわざわ悪かったな」
「?べつにそんなこともないけど…どうするんだ?」
「は?何がだよ?」
「訓練だ。一緒にやらないのか?」

 紫苑は当然そのつもりだったのだろう。言葉や態度の端端から、ありありとその思いが受け取れる。
 対して紅真はまったくの考慮の範疇外のことを云われて固まっている。彼らは常から訓練時に力を合わせ協力して…などというようなことはしたことがない。
 それも当然。
 紅真にとって紫苑はライバル。倒し、乗り越えるべき相手であっても、仲良く技を磨きあうような仲ではあくまでもなかったのだから。

 だがしかし。
 今はべつに仲違いしているわけではない!!

「は?ああ、ええっと訓練!やる!!もちろんやる!!」

 わけのわからない言葉をどもりながら、紅真は気合も新たに紫苑を引っ張って歩き出したのだった。向かうは普段から方術の訓練を行っている森の中。





「……」

 紅真は重いため息をついた。
 決して修行に疲れてなどではない。彼の体力はそこ知らず…な、感がある。訓練程度で疲れたりはしない。
 では何に対してため息などついたのか。

 目の前にいるのは、紅真の思い人の紫苑。
 この間、愛?の告白は済ませた。よって紫苑は紅真の気持ちを理解している…はずである。
 そして紫苑は紅真のことを好きだといった。自分「も」好きだと云った(明確には紫苑は「嫌いじゃない」といっただけだが、紅真の中では「嫌いじゃない」=「好きだ」で変換されている)
 なら!ならば!!
 わかってくれてもいいじゃないだろうか?!この気持ち!!

 紅真は再び盛大なため息をつたのだった。

 そんな紅真を横目に見ながら、内心呆れているのは紫苑である。
 いつもいつもため息をついている紅真に対して、自分はかなりその鬱憤を晴らしやすい状況を作ってやっているつもりなのだが…。

「はぁ…」

 紫苑もまたため息をついた。
 はっきり云えばやりたくない。やりたくはないが…悲しいかな。自分は結局、彼が本当に好きなのだ。
 紫苑は思わず苦笑して、それから紅真に声を掛けるために、彼の元へと歩みを踏み出した。

「紅真」

 声を掛ければとりあえず顔を向ける紅真。そこにはありありと疲労の表情が見て取れる。
 紫苑は今度は胸中で、さらに苦笑した。
 ―――そんなに我慢することはないのに。

「紅真」

 優しく名前を呼んで、ゆっくりとその間を埋めていく。
 吐息がかかり、それさえも埋める。
 はじめは啄ばむように。次は最初よりもほんの少しだけ長く。
 そっと触れた唇を離して微笑んでやれば、驚きに見開いた真紅の瞳が自分を見つめていて、笑みが自然と深くなっていた。

「紫苑…」

 茫然自失といった感じでつぶやく紅真に、紫苑はおかしそうに云ってやる。

「俺は、そんなに鈍くないぞ」

 目の前にあるのは空にも透き通りそうな蒼い、透明な瞳。妖しく微笑むその人に誘われて、紅真は己が腕を伸ばしていた。

 誘われるままに。



 その呼吸さえも自分のものにしたい。
 吐き出された熱い吐息も甘い声も、みんな。かけらだってこぼしたくなくて、紅真は何度も何度も紫苑のその口をふさぐ。
 甘く舌を絡めるように差し入れれば、異物感に瞬間は逃げ、けれど条件反射で追いかけてくる。
 その様子が可愛くて、紅真は紫苑との口づけを終わらせられない。

 紫苑のその身体から徐々に力が抜けて、もう立っているのもつらいのか、紫苑は紅真の服の裾をぎゅっと握り締めた。
 その様子に気づき、紅真はようやく紫苑の唇から自分のそれを離す。跡を引くように銀のすじが落ち、あとには紫苑の艶めいた息遣いが響く。朱く色づいた唇を目に写せば、知らず喉を鳴らしていた。
 心地良いその音に耳を澄ませながら、紅真はそっと紫苑の身体を自分に寄り掛からせるように引き寄せた。

 まだできあがっていない身体はお互いさまで、けれど抱き締めた紫苑の身体が自分のものよりもずっと細く柔らかいと感じる。その肌がこの島の人間の平均よりもずっと白いことを知っていた。
 小さな傷が無数にある。
 自分が彼につけた傷も…。
 ―――彼は、覚えているのだろうか?

 紫苑の細い肩から外套が落とされる。しなやかな肢体がよりはっきりと露わになれば、もう抑える必要が何もないのだと、いまさらながらに思う。
 理性など、あの口付けの瞬間に飛んでいる。

 焦点の合わない瞳で、紫苑はぼんやりとただ空(くう)を見つめていた。
 揺らぐ鮮やかな紅が一色だけ。視界のすべてを染めている。
 自分の背中に、自分よりもほんの少しだけ大きな手が回される。それがひどく心地良く頼もしく感じて、紫苑はその感覚の海に身を投げ出してしまいたくて目を閉じた。

 人肌のぬくもりの心地良いことなど、もう随分と忘れていたように思う。熱の篭もった紫苑の肢体を抱き締めながら、紅真はその心地良さに瞳を閉じた。
 ゆっくりと地面に腰を下ろしていく。辺りは枯葉に覆われて、程よい弾力を持って自分たちを迎えた。無数に伸びる木々の一つに寄り掛かれば、力の抜けた紫苑の身体は何の抵抗もなく紅真に寄り掛かる。その様子に、紅真は知らず、嬉しそうに微笑んでいた。
 まるで母親に褒められた子供のように。純粋に。

 いつも黒ばかり着ているのは闇にまぎれる暗殺こそがここでの任務の大部分を占めているからだ。黒は闇にまぎれ、そして鮮やかな血の色さえも隠してくれる。
 罪の意識。
 そんなものがあるのかさえわからなくなっていく心で、それは確かにやわらげてくれるのかもしれなかった。

 優しい彼。
 その瞳が、その心が、いつも涙を流していると知っている。それでも尚、彼が紅を纏っているのはなぜなのか。
 彼の流したなみだの痕(あと)を辿るように、紅真は目じりに口付けていく。滑るように、優しく。
 微かに朱(あけ)に色づく頬を辿り、形の良い顎を降り、首筋に顔をうずめれば、くすぐったいのだろうか。紫苑がわずかに身じろいだ。

 きゅっと、紅真の着物を掴む手に力を込めたのがわかった。
 目の前にあるのはまぶしいほどに鮮やかな白い肌。無駄な肉一つないその鎖骨部分を、少しきつく吸い上げれば、まるで桜を散らしたような桃色の痕(あと)。
 紫苑が本当に自分の腕の中にいるのだと実感できて、紅真はわずかにその口端を引き上げた。

 そっと紫苑の着物の内へと手を差し入れ、直に彼の肌に触れる。紫苑の肩がわずかにはね、紅真の着物を掴む腕に力が入った。
 わき腹から撫でるように掌を滑らせていく。胸の突起を親指の腹で撫で付けてやれば、それまで必死に抑えつけていたのだろう。紫苑が艶のこもった声音を、吐息と共に吐き出した。

「やっ…」

 掠れた、涙の交じった声。
 硬く閉ざされたその瞳。長い睫毛が、小さく震えていた。

「紫苑…」

 声が聞きたかった。
 彼はあまりしゃべらないから。
 声を聞きたかった。
 彼のあんな声は、はじめて聞いたから。

 初めての行為。
 こんなふうに誰かに触れたいだとか、口付けたいだとか、思ったのも初めてかもしれない。
 それは親愛とはまるで違う。
 血のつながった誰かに感じるものとはまったく違う。

 自分がひどく醜くなるのを感じる。
 抱き合うその人のすべてが欲しくて、自分だけを見てほしくて、自分を貪欲に求めてほしくて。
 身体が、声が、吐息が…無意識に動いていく。

 硬く閉ざしたその唇を開いて欲しくて、紅真はそっと口付けた。
 朱く色づいた唇に触れ、すぐに離れる。何度か繰り返すと、震えていた睫毛がうっすらと持ち上がって、艶にぬれた蒼い双眸を覗かせた。
 わずかに開いた唇を、今度は自分のそれで閉じ込めるように吸い上げれば、息苦しさに紫苑が眉根を寄せる。性急な求めに、しかし抵抗らしい抵抗は何も見せず、紫苑はただ紅真のさせたいようにさせた。

 きっと、自分もそれを望んでいる。

「ふぅ…あっ……」

 激しい口付けに抑えきれずに吐息が洩れる。
 着衣が乱されていく。
 外気に晒された下肢に、紫苑は恥ずかしさのあまりきつく瞳を閉じた。
 きつくきつく。助けを求めるかのように紅真にしがみつけば、まるであやすかのように紅真の手は紫苑の背中を撫でる。

 幼いころの記憶に、意識が沈んでいくようだった。
 暖かなぬくもりに安心した赤児のように、紫苑はその身体から力を抜いていく。
 しかしその安心感は突然に破られた。
 今までそこに誰かの手が触れることがあるなどとは考えたこともない。

「こ、紅真!!」

 紫苑は慌てて紅真の名を呼んだ。
 もちろん静止のためだ。

「紫苑…」

 しかし紅真はただ優しく紫苑の名をつぶやくだけだ。
 耳元で囁かれるその声音には抑えようのない焦りがこめられていて、高まり敏感になっているところに掛けられたその声音に、紫苑は身体を震わせた。

「い、やあぁぁぁ!!!」

 突然に襲われた。
 自分の奥底を割り開こうと進入してくるその痛みのあまりに、紫苑は生理的なものも含め涙を流し叫んでいた。
 声を抑えるなんてできなかった。ただもうその痛みから解放されたくて、必死に紅真にしがみついた。頭を振り、声を出して、けれどそれらの行為にはほとんど意味がなく。
 まるで火花が散ったような脳裏で、それでも冷静に自分の今の状況を把握している部分が像を結ぶ。紅真が自分を求めるいるのがわかる。紫苑は声を抑えたくて、痛みをやわらげたくて、紅真の首元に頭をうずめて噛み付いた。

 ちりりとした小さな痛みが首筋を辿り、紅真はわずかに顔をしかめた。視線だけをめぐらせて見れば、目尻に涙をためた紫苑が、必死に自分にしがみついている。
 初めてのその行為で、教えてくれる人なんか誰もいないから。
 痛みを少しでも和らげてあげたいと思う。泣かせたくなんかない。
 けれど、その術(すべ)を知らない。

 どうすればいいのかわからなくて、けれど自分の身体はもう自分で求められないまでに紫苑のことを求めていて。
 紅真は紫苑の中に自分の指をゆっくりと沈めていった。

 自分の中にある異物感に、紫苑は泣き叫びたくなるのをこらえるだけで精一杯だった。
 熱くて、痛くて。
 自分がもう何を感じているのかもわからない。
 自分のすべてが、体中の血がすべてそこへ集まっていくような錯覚。
 熱くて、熱くて。

 首にかかるのは苦しげな吐息。
 けれどそれが余計に自分を抑えられなくさせる。
 少しずつ割り開いていく。指を押し入れるごとに、その数を増やすごとに、彼の身体が震え、悲鳴と吐息と…そして涙が流れていくのを感じる。
 指を押し出そうとしているのか、それとも逃すまいとまとわりついているのか。
 彼の中は、ひどく熱かった。

 自分の中から異物がそっと引き抜かれていくのを感じる。きつい圧迫から開放されたことに、紫苑は知らず肩の力を抜いていた。
 しかしすぐにまたべつに異物感。自分を割り開き侵入してくるのは、先ほどよりもずっと質量を持っていた。


 熱くて、痛くて。
 どうすればいいのか、もう、お互いにわからない。


 ただ心が求めるままに、体が動いた。
 耳に響く紫苑の悲鳴。泣きじゃくる声。逃れようとする肢体を抱きこんで、押さえつけて。
 ただ欲望の求めるままに、導くままに。


 こんなにも、誰かを求めたことなんてないから。
 こんなにも、誰かに求められたことなんてないから。


 日が暮れて。
 あたりを茜色の空が覆う。
 朱に染まった雲が流れる中、枯葉の舞う深い森の奥で、二人は絶頂を迎えた。
 夜を迎えようと吹く風はひんやりと冷たく、熱に浮かされた肌に心地良かった。










 やわらかくキスをして。
 まるで羽が舞いおちるかのように。

 やわらかくキスをして。
 わたしの全身に。










 熱に浮かされた瞳で、朱と蒼。
 二つの微笑が近くなり、その唇が、重なった。




















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劉カズのエロ小説(爆)を読んでいたら突然書きたくなりました。今度は逃げなかったよ(多分)
もう疲れました疲れました。書きながら何が可笑しいのか突然笑い出すし咳込むし(かなり危険)
えろはたいそう難しいです。そしてなにやら異様にスクロールが長くなったような気がします。
これだけ書くのに3日も掛けたってどうよ?!本当は5日にUPしたかったのです。
でも書けない書けない(笑)そしておちない(泣)ゆえに書いても書いても終わらない(疲)
いや、他にも用事がいろいろあってこれだけ書いてらいられなかったのもあるんですが…。
しかも気がついたら紫苑さんが誘いかけてるし。文体がものすごいギャグだし。
ギャグっていうかふざけすぎ。特に前半部分。申し訳ありません!!(土下座にて平謝り)
っつーか邪馬台幻想記でこんなの書いてるの、自分の以外に見たことないです(汗)
邪馬台幻想記ファンとして一人ずれている(というか腐っている)気がする今日この頃。
はたしてキャラクターの年齢とこのお話しの描写はあっているのか?!きっとめちゃくちゃv
では、長くなりましたのでこのへんで。ご意見ご感想など頂けたらかなり嬉しいです---2002/09/06
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