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銀星 +










星はただ瞬きを繰り返し
神などこの世にいないと感じた










「納得できるものか!!」
 私は叫び、彼女は哀しげに微笑した。
 目の前には、ただ深く広く夜の闇があり。星の光に、彼女の蒼銀の髪が揺れて。
 彼女は私に背を向けて、まっすぐと歩き出したのだった。





 それは陰の暦(こよみ)、水の刻(きせつ)のことだった。
 歴(もしくは歴史)は陽と陰の二面に分けられ、刻(季節)は月、水、風、地、火を廻る。属性は光と闇。
 月は闇の属性。時間と空間を司る。夜は月の管轄。
 水は光の属性。誕生と死を司る。命は水から出(いで)水に環(かえる)。
 風は光の属性。静寂と活気を司る。思い(感情、心)は風によって興(おこり)風によって巡る。
 地は光の属性。成長と苦行を司る。太陽は地と繋がる。
 火は闇の属性。混乱と鎮座を司る。朝は火の管轄。

 それぞれは独立し、月は雨によって水と繋がり、水は海によって地と繋がる。地は樹によって風と繋がり、風は雷によって火と繋がる。火は星によって月と繋がり、空によって陽と陰は繋がり、それを以って凪の華(なぎのはな)と呼ぶ。
 決して変わることのない均衡(バランス)のもとに存在している。

 凪の華のその中心は空。その下にある空間を「高天」と呼ぶ。
 そこにはそれぞれ独立した刻の力が蓄積して混在している。それを見つけた「人」はそれを「神威力」と呼んだ。
 見つけた人は高天に立ち入る術を見つけ出し、そこに都を築く。その都を高天の都と呼んだ。
 神威力についての研究と、制御する術の研究。
 神威力で刻を制御する術を探し出す。
 そして崩壊の時がやってきた。

 神威力は排出された塵の蓄積物に過ぎず、刻と交えることによってそれは毒と化す。
 凪の華は世界。
 世界が毒に犯され、狂いだした。
 狂ったものを止める方法。

 一。消す。
 ニ。眠らせる。

 一を選ぶわけにはいかないので、二を選んだ。

 刻を眠らせる方法。
 刻を制御する方法。
 刻の核を取り出して、それを依り代に封じ込める。依り代を眠らせる。それで終わり。

 五人の依り代が選ばれた。
 彼女はその一人。
 月の依り代だった。





 それは陰の暦、水の刻のことだった。
 私の伸ばした腕は振り払われて、叫んだ声は届かない。
 それで私は知ったのだ。

 この世に神はいないのだと。

 ならば誰が私を止める権利を有するというのか。
 誰もが皆、自分の我侭の為に生きているのだから。

 止めてみせるがいい。
 例えこの命が消え、この記憶が消え、私が私でなくなっても。


 私は、この我侭を押し通す。

 私自身のためだけに―――。










 いつも見る夢の、それは変わらぬ終わり。
 視界は常に朱く、何もかもが紅く。
 視界の隅に移る夜空の星だけが、まるで嘲笑うかのように妖艶なまでの銀光で輝いていた。










 それは陰の暦、水の刻のことだった。
 その夜、私はこの身に呪いをかけた。










ただ力あるだけの木偶の坊どもよ
お前たちの我儘にはもう、うんざりだ










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 あとがき +------------------------------------------------------

 たったこれだけにたいそう時間を掛けました。構想には所々穴と矛盾が存在しますが、目を瞑って見ない振りでお願いします。
 たいそう短くてごめんなさい。書く予定だったものはまったく書けていません。次の話に繰り越しです。---2003/03/18

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