◇ 滅びの国 ◇
なぜ滅びはやってきた?
月代国の王は、代々蒼銀の髪を持っていた。それが、表向きの「月代国王」としての証だったからだ。 王であるのに本当に必要だったのは、髪を銀に染め上げている存在。 『月読の剣』 月の刻印が刻まれた心具を、そう呼んだ。 それが、たとえば斧でも槍でも、そう呼んだ。 つまり、月代国王になるためには、月の刻印をその身に継承し、月の刻印の刻まれた心具を創造できることである。そして、それができるか否か、つまりは月の刻印が継承されているかいないかを見極める判断材料が、『髪の色』であった。 蒼銀の髪の王の子が、月の刻印の継承者。 次期月代国王。 現月代国王の名を蒼志。その妻を緋蓮。 王夫妻には双子の姉妹がいた。 姉を紫苑。妹を藤乃。 次期月代国王は紫苑。 女王ではいけないなどという掟はない。だから、これは次期国王である紫苑が頼りないとかそういったことによるものではない。 紫苑の婚約者の名を紅真。華麟国の次期国王。 二つの国は性質的に同じ存在だった。 月の刻印を守る月代国王を、守るための国。それが月代国。 星の刻印を守る華麟国王を、守るための国。それが華麟国。 華麟の王はその瞳に禍々しき凶星たる真紅を宿している。その心具には七星の印(しるし)。 あまりにも古い国。 古すぎて、滅びに向かい始めた国。 どうにかこうにか、国としての体裁を保つための、合併。 刻印を守り抜くための、最後の手段。 紫苑はいつも言っていた。 羨んでいた。 藤乃の母譲りの黒髪と、父譲りの青い瞳。 自由に人を愛せること。 藤乃はいつも思っていた。 羨んでいた。 紫苑の父譲りの蒼銀の髪と、母譲りの紫水晶の瞳。 藤乃の愛した彼と、一緒になれること。 紫苑は王にも紅真にもこだわってはいなかった。 月代国が好きで、それを守るために王になる。月の刻印をその身に宿すことも、紅真を受け入れることも、義務だと思っている。 ただ、愛しいと囁かれては、少女は彼の人を受け入れることに、自分の思いを重ねることができるようになったようだったが。 藤乃は王になりたかった。 まるで選ばれたものであるかのような優越感に満たされたかった。 自分は選ばれなかった。 自分はその他大勢と同じ。 そんな劣等感を、物心ついた頃から感じていた。 藤乃は愛した人が欲しかった。 紫苑と紅真の初顔合わせの席に、藤乃は紫苑の隣にいた。 一目見て、心を奪われた。 初めて知った愛を向けた存在は、自分の半身だけのものであると決定されていた。 だから藤乃は手を取った。 欲するすべてを奪えると。 憎いすべてを崩せると。 そう云って笑うその手を取った。 月代国が燃えていく。 父が、母が、友が。 自分を愛してくれたものすべてが灰になっていく。 彼女も灰になっただろうか? 想像したら、あまりの愉悦さに笑みが浮かんだ。 自分はこんなにも半身を憎んでいたのかと、今更ながらにおかしかった。 おかしくて、仕方がない。 今度こそ、彼は自分を見つめてくれるだろうか? 胸がどきどきする。 頬が温かく上気していくのを感じる。 微笑が洩れた。 こんなにも、愛しくて仕方がない。 あんな新興組織に潰された、古い古い王国。 まるで、古い神々が新しい神々によって弑されたようだ。 古い時代の終わり。 古い力の失墜。 これから、新しい時代が始まる。 胸がどきどきする。 息が苦しい。 視界が霞む。 そして、用済みの彼女は殺された? |
裏切り者がいたからさ。
----+ あとがき +------------------------------------------------------
オリキャラ藤乃は表の小説掲示板にて突発的に生まれたキャラクターです。そこでは紫苑は別に女の設定ではなかったけれど、女にしたから裏行き。 だって古の戦術を伝え続けて、さらに伝説になってしまうほどに古い高天の都に直接的に関係している『月代国王』が、突然でてきた陰陽連に崩されるのってどうにも不自然な気がしたから…。 陰陽連は方術を手に入れているけれど、それだけなら月代国と同じで、それでいったらおそらく人数的にも技術的にも月代国の方が歴史がある分『上』だろうと。それでも負けた理由は何だろう?と。 陰陽連に攻め込まれて方術を使わなかった…ってのはない気がします。 さらに方術は国王にしか継承されていないってのもないと思います。 ところで、今更これを云うのもどうかと思いますが、連載版邪馬台幻想記の紫苑の髪は「紫」というか「灰色」というか…ですよね。私は読みきりから入ったので、どうしても「白」というか「蒼銀」が抜けなくて…表現がこうなります。 ご意見ご感想ありましたらぜひお寄せくださいです---2003/09/10 |
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