石造りの牢 




太陽と月が出会うと闇が生まれる。





 永遠にすれ違い、僕らが出会うことのない方が、世界は光に包まれて永遠の安らぎを得ているはずなのだろう。昼は輝かしい聖なる光に照らされて。夜は静かなる灯(あ)かりが燈(とも)っていて。
 たった一人ではその姿さえ誰に気づいてもらうことも適わず、誰の役にも立ちはしない。役立たずなばかりのこの身で。それでも何よりもあなたの光を受ける、この独占に甘んじている。

 たった一つ赦された、惨めなこの身の栄誉をどうか。

 太陽の光が地上を照らす。この光があるからこそ、人は希望を抱くことができる。至福を感じることができる。笑顔でこの世を生きていくことができる。
 夜。
 闇の中に浮かぶ月と星の明かり。数ばかり多いそれは、貴方の助けにもなりはしない。人々は闇と寒さに怯えて家の中で丸くなって朝を待つ。

 貴方がいるから人々は笑い、私にはその手助けさえできない。私はただ人々を狂わせ、怯えさせて。
 せめて。
 せめて。
 夜の闇の中にあって、人々に小さくてもいいから、安らぎを与えられるようにと輝いていみるけれど。人々は、私の姿を見ては狂い、あるいは怯えて。

 私と貴方は決してめぐり合うことはできず、それこそが至福。人々の至福は、私と貴方が天に別れて並ばないこと。
 すれ違い続けること。永遠に、邂逅しないこと。
 決して、決して、重なり合ってはいけないのに…時に私はそれを忘れて。

 太陽と月の重なる瞬間。
 日蝕のとき。
 星さえもない空。
 闇に包まれた世界。
 人々は怯え、恐怖し、絶望に身を竦ませる。

 すべて、私のせいなのですね。
 すべて、私のせいなのですね。

 けれどあなたは笑ってくれる。私を照らして笑ってくれる。
 これ以上の涙をどのように流せばよいのでしょう。泣いてしまう私を許して。どうか許して。
 一人では歩めない私。
 愛する親兄弟か。他人同士であるから愛していないというのか。
 この生命(いのち)あふれる星で。
 この生命あふれる星で。





「紫苑くん?泣いてるの?」
 心配そうに眉根を寄せて覗き込んでくる君の視線から逃れるように、俯かせた顔を上げようとはしなかった。
 泣いてなどいないといえば、君は頷いてここから離れていくだろう。涙を流すことの意味を、人前では泣かぬことの決意を、君もまた、知っているのだから。
 けれど僕はその言葉さえ紡ぐことができない。浮かぶ言葉どれも僕の心を裏切っているようで、音にすることなどとうていできそうもなかった。
 側にいて欲しいのか、遠く離れて欲しいのか。見るなと、放っておいて欲しいと願う矜持も本当で、側にいてそのぬくもりに触れさせていて欲しいという甘えも本当。
 君は本当に、母のようだ。きっと、君ならばこの国の母になれる。

 何も聞かずに、君はただ、僕の側にいてくれる。
 そのことに、僕がどれほど救われているか、君はきっと、知りもしないのだろう。

 付かず離れず、側にいよう。決して寄り掛からぬように。けれど決して冷えぬように、そのぬくもりの感じられる距離で、君を守ると誓うから。
 君の涙を見ても、僕は慰めはしない。理由(わけ)も聞かない。ただその涙の流れるに任せよう。君から僕の姿の見えぬところで、僕からも君の姿の見えぬところで、ただその涙の止まるのを待つ。いつまでも、待ち続けよう。
 君が自分の足で立ち直れることを知っているから。
 いつもは知り続けるために、それは必要なことなのだと、君に出会ってようやく知ることができたから。溢れる涙を止めなくてもいいときが、その場所があることを、君が教えてくれたから。





 あなたの輝きのおかげで、私は世界が光りにあふれていることを知りました。輝かしい世界は失われ、闇に閉ざされたと閉じ篭っていた私は、世界は傷ついても尚輝きを失わず、力強く輝き、自らの力で再生し続ける明るさを持っていることを突きつけられたのです。
 瞠目する私に、あなたは手を差伸べてくれる。

 世界はあなたに恋焦がれ、その手を伸ばすけれど。あなたはただ見守るだけ。
 世界はあなたのために渇きを訴え、けれどあなたを失うことを、あなたから与えられる光の世界を失うことを恐れている。

 世界があなたの眩さに眉を顰めるのを見て、私はあなたの灼熱劫火から愛する世界を守ろうと影を作る。
 けれど顰められたと感じたのは私の勝手な思い込みだったようで、あなたの光りに失われた世界では恐怖と混乱が渦を巻く。私は愛する世界をただ怯えさせただけ。
 それでは私はどうすればいいのかと。ただ涙を流すしかなく。
 愛する世界に、私は慈しみを与えてあげることができないと。
 ただ涙を流すのです。
 ただ、涙を流すのです。





私のことに気がついてください。
この叫びを聞き届けてください。
私はいつもあなたに照らされて。

そうしてどうにか輝いていられるのです。





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 すっごい久しぶり。果てしなく珍しい。紫苑→壱与です。突然思いついた。日蝕。太陽=壱与=貴方。月=紫苑=私。つまりは紫苑独白。…とか3月頃のコメントで書いていました。掘り起こして中途半端に投げ出してあったのを完成させました。紫苑が泣いてるのは紅真がらみですよ。だってこのサイトは紅真×紫苑推奨ですから。紫苑と壱与の間にあるのは愛ではなくて同志としての信頼です。…こんな駄作を発表してしまいごめんなさい。
 ご意見ご感想お待ちしております_(c)2005/03/29-2005/09/04_ゆうひ

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