I LOVE YOU

※このお話は、下記のバトンを元ネタに作成されいます。

【「I LOVE YOU」バトン】
 その昔、「I LOVE YOU」を夏目漱石が『月がキレイですね』と訳し、二葉亭四迷は『わたし、死んでもいいわ』と訳したと言います。
 さて、あなたなら「I LOVE YOU」をなんと訳しますか?もちろん、「好き」や「愛してる」など直接的な表現を使わずにお願いします。





『あなたにも、幸せになって欲しい』
「そう、答えた、のか?」
 紫苑は、彼にしては珍しく瞠目してその驚愕を顕わにした。口もぽかんと開いたその表情に、壱与は笑顔を崩さず肯定する。きれいな人は驚いた姿もかわいらしくなるだけなのね、と、内心の呟きは決して表には出さない。だって、彼が拗ねてしまうから。壱与は内心でやわらかく笑った。
 彼が驚くだろうことを、壱与は予想していた。未来へ向かう仲間として、過去だって受け止め合ってきた。だから、考え方だってわかる。紫苑には、きっと、理解できない言葉だろう。だって、壱与自身でさえ思う。これてはまるで断わりの科白だ。
 けれど彼なら分かってくれる。そう確信しての言葉。だから壱与は、漸く応えたのだ。出会って数年。四捨五入すれば十年になる。出会っで初めてから、ずっと、愛を捧げてくれていた彼なら、きっと分かってくれると信じて、けれど不安で。今、勇気を持てたから、漸く口にできた言葉。壱与の真実。決して変えられぬ思い。
 周りの人々は、少しだけ勘違いしている。壱与と紫苑の関係を。
 紫苑とは違う絆。
 誰とも違う絆。
「ふふ。レンザ君は、ちゃんと分かってくれたわよ」
 苦虫を噛み潰したような紫苑とは対照的な、壱与の笑顔。それは、一緒にならなくとも信じ合えることを確認した後だから。だって、気持ちを伝えた彼は、喜んでくれた。受け入れてくれた。受け止めてくれた。それだけのことが、何よりも幸せ。
 決して譲れぬ思いなのだと、どう、主張すれば分かってもらえるだろう。壱与は、言葉にはせずに思う。得心がゆかず、まだ困った顔のままの紫苑に、結局、説明なんてしなかったけれど。
 みんなに、幸せになって欲しいのだ。平和のために、この身を捧げると誓った。
 争いのない国を、争いによって失われたものたちへの誓いを、帰る場所を失った者たちのための安らぎを。女王としてではなく、誰に云われたからでもなく、数ある悲しみを経て、思ったのだ。
 だから、これでいい。
 うんうんと唸り続ける紫苑を前に、壱与は微笑み続けるばかり。執務の合間の他愛無いひと時。壱与はこの時間が何より好きだった。
 さて、もうひと頑張り。
 腕を頭上に引き上げて背筋を伸ばす。ほぐれた体と一新した気持ち。
 書簡に視線を落とし、筆を手に取った。



 邪馬台連合国には己の愛を主張することに躊躇をしない男がいる。巷で話題にもなっているその男とは、当然レンザのことであったが、日々、畏れ多くも女王陛下へふざけてさえ見える態度で愛を語ってはいいように扱われている、というのが大半の評価で、誰もがその言葉を本気になどしてはいない。女王壱与が魅力的な少女であるのは誰しも認めるものであったから、レンザの言葉がただの悪ふざけやからかいなどではなく、彼なりの忠誠と人付き合いのスタンスであるのだろうと誰の目にも映った。
 幼いころ、口減らしにと森の中に捨てられた彼はいつだって全力で立ち向かう姿を隠しもしない。あらゆる言葉を惜しむことなく伝え、しかしその実、一番奥底は決して見せない。
 出会いからすぐに、紫苑はレンザと壱与が根本的に似ていると感じた。
 傷を抱えている人間は多く、人は喜びを感じることのできる代わりに痛みを覚えるようにできているのかもしれない、そう感じさせるほどこの世は悲しみと幸福が隣り合って満ちていた。
 壱与とレンザ、邪馬台国の人々。紫苑のであった者たちは、皆、過去の傷を抱えながら、いや、傷を抱えるからこそ、明るく、優しく、人生を謳歌しているかのようだ。孤独を知るからこそ手を差し伸べ、他者を受けいる。終わりの恐怖を知るからこそ、死の虚無を知るからこそ、今を全力で生きる。決して後悔などしないように。
 同じように傷を負い、同じように孤独を知り、しかし頑なに心を閉ざす紫苑とは異なる道を選んだ人々。
 笑って、泣いて、怒って。人生を謳歌する人々。
 夢へ向かって歩くことを選んだのは同じなのに…。あまりにもその対照的な在り様に、紫苑は呆然としたことがある。
 笑ったり、泣いたり、怒ったり。そうする人々と出会い、そうする人々を見つめ、そうする人々と関わる。そんなことは、陰陽連にあったときにだって変わらず紫苑の世界に存在していたことだ。もし違うことがあるのであれば、それは、嘘と本音。
 陰陽連での紫苑は飼われていた。
 邪馬台国で紫苑は保護され、そして、人としての営みの正しい在り様へ戻れるように、手を差し伸べてもらった。
 レンザは笑っていた。壱与から「愛している」と云ってもらえたと触れ回っては、「よかった、よかった」、「おめでとう」などとおざなりに返される。「信じてないな!」なと喚いてむきになるレンザ。ああ、いつも通りだ。
(だって、壱与とレンザはずっと前から互いに同じ思いを抱いてた)
 確かな言葉で繋がり合った。それだけのこと、今更のこと。だから、いつも通りなのか。
 でも、紫苑にはわからない。
(なんで、あの言葉で、そうと信じられるんだ――)
 他の誰しもと同じように、あなたにも幸せになって欲しい。壱与は、きっと、誰にだってそう伝える。誰に対してもそう願っている。少しでもそうなるように、頑張っている。
 それなのに、なぜ。
 紫苑の視線の先。レンザはいつものように、喚き、飛び跳ね――。声も仕草も態度も、五月蠅いばかりであった。



 紫苑は驚いたその言葉に、しかしその言葉を捧げられた当の本人は大層喜び、己の恋の成就に感激の様相を顕わにした。
 紫苑には到底理解できない。だって、それは逆ではないのか。彼の恋は破れ去ったのではないのか。
 理解できないことがあると、最近は彼にばかり相談している。紫苑はその件についても彼に相談した。それはもはや紫苑にとっては当たり前の行為で、紫苑が首を傾げると、彼の赤い瞳が呆れたように色を増し、その眉間に皺が増えるのは、もはや日常のことであった。
 紅真と紫苑が共に生活を送るようになって、すでに三年が過ぎた。それは、高天の都が崩壊し、この国の神々があるべき姿を取り戻した年数でもあった。
 崩壊する虚空の世界からの脱出。紫苑は足を取られ、崩れ落ちてくる石造りの天井に終えるかに見えた。しかしそうはならなかった。だからこそ、彼は今、ここに在る。
 紫苑の命を救ったのは紅真であった。袂を分かってから三年を経、二人ともに少年から青年へと伸びゆく若竹のようにしなやかな成長を遂げている最中。随分と伸びた背、しかし所詮、結局はまだまだ「少年」でしかない二人。紅真の方が紫苑よりも若干体格に恵まれ、背も伸びやかで筋肉もついていたが、まだまだ細いその体。落下の速度を伴って降り注ぐ瓦礫の雨を前に、紫苑の傘となるにはあまりにも無謀だ。その背の骨が折れなかったことさえ、奇跡に等しい。
 言葉もなく見上げる紫苑に、顔を顰めたまま、紅真は告げたのだった。
『おまえが俺の以外の誰かに殺されるのも、俺の知らないところで勝手に死ぬのも、ムカつくんだよ』
 それはきっと心から言葉。彼の本音だ。
 なぜだろう。紫苑は今でさえ不思議に思う。
 その言葉を捧げられたとき、紫苑は紫苑は驚いた。そして、すぐに心を満たしたのは喜びだ。そんな場合ではないのに、酷くドキドキとしてうろたえた。どうしていいのか分からなくなり、見かねた紅真から「とっとと立て」と叱られる始末。慌てて立ち上がり走りだす紫苑の横に当然のように並んだ紅真を盗み見れば、やはり平然としていて、紫苑は頂いた言葉が空耳か、よくて聞き間違いではないかと疑ったほどだ。
 無事に命を繋ぎとめて帰ってみれば、当然のように紅真が紫苑についてきていて、紫苑には不思議なことに、壱与やその他の邪馬台国の人々は、あたかもそれが当たり前とばかりに振る舞った。云わせてみれば「ああ、やっぱりね」そんな言葉が聞こえてきそうなほどだ。
 さて、今後どうするのか。紫苑は憂慮した。
 今まで敵対していたのだ。彼らに対する邪馬台連合の取る態度が厳しいものとなることは必至だと思われた。
 しかし蓋を開けてみればどうだろう。旧陰陽連方のものは、表面上、すんなりと邪馬台連合へと取り入れられ、立場を問わず、国民へと迎えられている。それを可能にしたのは紫苑ではなく、紅真であった。
 紫苑には意外なことに、紅真は人をまとめるのが非常にうまかった。シュラというまとめ役を失い、行き場のなくなった陰陽連の人間たちをまとめ、邪馬台連合国の中にあって不遇なく生活を営めるようにしているのは、間違いなく紅真の才覚によるところに他ならない。ほとんどが今になってもなお戦いにその身を置くことしかできない人間の集まりであるが、所帯を持つ者、農業や建設業などと云った戦いからすっかりと離れた生活を営む道を選んだものも出ている。おそらく――これは紫苑自身の楽観的ともいえる希望も多分に含まれた予見に過ぎないが――あと数年、十数年の後には、本数以上がそういった道を選び、やがて、戦いの日々さえ忘れてその人生を終えるようになるだろう。
 壱与の護衛でしかない紫苑などよりよほど重要で忙しい日々を送る紅真は、しかし紫苑の前でそうと見せたことはない。何もできない紫苑の代わりに――紅真は代わりになどとは決して認めはしないだろうが――紅真は共同生活における何もかもを仕切った。体を重ねるようになったのはいつからであったろう。共に生活を送りながらも日々不安が増す日々に終止符が打たれたの日のこと。
 不安。
 何に不安を感じる必要がある?彼が裏切るかもしれないことにか。いや、もはや紅真がかつての陰陽連のように欺くことなどあるまい。その理由などないはずだ。
 なぜそう言い切れる?紅真のことなど、本当は何も知らないのに。
 だって、紅真は告げてくれたではないか。この身を慕っていると、強く強く慕っていると、伝えてきたではないか。
 それが嘘だというのか。いいや、それは彼の心からの言葉。きっと、彼の本音だと直感したはずだ。信じていいはずだ。彼を、信じていいはずだ。
 紫苑は言い聞かせる日々が続いた。
 紫苑自身も気づかぬままに、己自身を追い詰める日々だった。
 そんな時だ。紅真がまるで突然であるかのように、何も言わずに紫苑の体を求め、そして成就したのは。
 翌朝、動けぬ紫苑に紅真はいつもの調子で云い放った。
「だからてめぇはバカなんだ」
 紫苑は苦笑した。それは自嘲であった。かつて紫苑は五年もの長きに渡って陰陽連に騙され利用され続けた。それから何も成長してないと、紅真に指摘され、同時に、また告げられてしまった。激しい愛の言葉。
 疑う必要がない。不安に思う必要がない。もう、失うことに怯えなくていい。
 ただ、信じていればいい。
「紅真にはわかるか?」
 確かな言葉を貰った紫苑とは裏腹に、レンザが壱与に頂いたのは、彼女であれば誰にも与えそうな言葉。それなのになぜ?
 首を傾げる紫苑を目の前に、紅真はもはや呆れの境地で蚊を歪めたまま戻しもしない。眉間による皺と半分下ろされた瞼。紫苑は心外だと思うこともなく小首を傾げた。あまりにも毎度のこと過ぎて、もはや心外だとさえ思わなくなってしまっていた。
「どういうことだ? 紅真にはわかるって云うのか」
 少し唇を尖らせて紅真の答えを促す紫苑。紅真がこれ見よがしに溜息をついた。
「あのアホ男には分かった。それだけのことだ」
 どんな言葉も気持ちが伴わなければ意味がない。同じ言葉であっても含んだ思いが異なれば意味が変わる。どれほどの思いを込めて言葉を紡いだところで、投げた先にいる相手が正しく受け止めることをしてくれなければ、それは役に立たないどころか有害にさえなりかねない。
「あの女は自分の気持ちに最も合う言葉を選び、あのアホ男はそれを正しく受け取った。それが本当はどんなもんかなんて、俺には関係ねぇよ」
 そんなものは思いを伝えあった当人同士の問題であって、他者が、まして気にもいしていないものがあれこれ考えるべきことではない。口を差し挟むなんてそれこそ莫迦だ。
 いまだ首を捻り続ける紫苑を横目に、紅真は内心溜息をつく。まったく、どうしてこうも鈍いのだろうか。頭は悪くないのに、紫苑は時に恐ろしささえ覚えるほどに人の感情に鈍感だ。
(肝心なときにもそうなときがあるからな…)
 紅真は今でも思っている。自分たちがこうしていることは、限りなく無に等しいほどの奇跡が働いて、なおかつ紅真自身の岩より重い努力の賜物であるからだ、と。
 そうでなくてどうして、紫苑が紅真の思いを正しく受け止めることができるものか。
 どうしても納得がいかないらしい紫苑に再び視線をやり――、紅真はやはり、ため息をつくのであった。





 神威力を誰より求めた男がいた。もはや過去の話である。
 その男は若く、力に満ちた男であった。たった一つの夢を描き、そのかなう一縷の望みを、髪の力に賭け、敗れた男は、その夢の崩壊とともに、己の命を終える道を選んだ。
 疲れた姿など見せたことのない男であった。想像すらできなかったその男の最後の姿を、紫苑は垣間見た。
 その背は幾分か丸まっていただろうか。ひどく疲れているようだった。しかしそれ以上に、果てしなくさみしげであった。切ないほどに微笑う男の最期の言葉を、紫苑の耳がとらえていた。誰に向けられてのものであったのかを知ったのは、すべてが終わり、そして新しいすべてが始まってから、まだ暫らくを要した後(のち)であった。
『……貴女を、あらゆるすべてから解き放って差し上げたかった。真の自由を貴女に、そして、貴女の愛する世界へ貴女を連れ去って差し上げたかった。……ただ、貴女の微笑う顔が見たかったのです』
 喜んで欲しかったのだ。
 共に、喜びと愛に満ちた世界で手を取り合って、穏やかでいたかったのだとは、男の夢だ。紫苑は知らぬ、それは間違いなく男だけのものだ。誰にも曝したことなどなく、死の迫る今際の際であってもそれは変わることがない。それでも、そのとき紫苑は理解してしまった。いや、それはあまりにも純粋で美しいその思いに中(あ)てられてしまったのだ。強すぎる思いに、紫苑は一瞬我も忘れて身動きが取れなくなる。
 閉じられた男の瞼の裏に映るものがある。反らされた首、持ち上げられた顎。その姿に、紫苑は男の瞼に映るその人が、今はもう亡き人なのであることを悟った。それは、亡き人を思う紫苑だからこそ得た、直感のようなものであった。
 そのことに、紫苑は驚いていた。崩壊するそこから逃げながら、紫苑は振り返り、ただ、その男の安らかな佇まいに、瞠目し、言葉もなかった。
 誰かを敬う彼も、何かを諦める彼も、すべてを受け入れる彼も。今、目にするすべてが、紫苑が今まで見続けていたシュラという男にはないと思っていたものだったから。初めて目にする姿であったから。
 逃げなくていいのか?
 そんな言葉など、どうして掛けられよう。まだまだ、おそらく、紫苑などよりもよほど余力を残している彼だ。
 きっと、誰にその思いを聞かれたなどとは思ってもいないだろう。聞かれていたところで気にするようにも思えないが、紫苑は居た堪れなかった。聞いてはいけないものを、見てはいけないものを見てしまったような何とも言えない思いに駆られる。
 だからすぐに顔を反らし、ただ目の前にだけ集中することにした。
 結局、最後まで追い越すことのできない相手であった。彼も、周りも、誰もが男は紫苑を利用しただけだというだろう。けれど、紫苑にとって男は間違いなく師であった。第二の「父」であった。
 絶望という名の深遠から紫苑を救い上げ、夢を追うための力を与え、そして今まだ、こんなにも大きな「想い」を人が持てるということを見せつけてみせる。
 ああ、あなたには、かなわない。
 もう二度と会わない人。もう二度と会えない人。
(ありがとう、ございました)
 心の中に手一礼し、それで最後にしようと誓った。もう二度と、後ろは振り向かない。そして顔を上げる。ただ、生きるために、崩壊する、この、高き天に広がる神々の園から逃げる。今はただ、そのためだけに。





 晴れていた。もうすぐ春が来る。風が強く、けれど温かみを帯びて吹き荒れていた。
 陽ざしは柔らかくなり始めている。けれど見た目よりも遠き所にあるそれは、輝きほどには大地を温めてはくれなかった。
 今年の夏は暑くなるのだろうか。輝く日差しに手を翳して思えば、遠く、耳によく知った声が届く。我らが女王陛下へ捧げられる愛の雄叫び。振り返れば、小さな影。どんな行動を伴っているのか判別できないほど遠くにいる彼らの、けれど耳に届いたその愛の雄叫び。あまりにも大きなそれに、らしいな、と苦笑を一つ。きっと、それはこれから先も変わることがないのだ、根拠もなく無条件に信じられた。
「おい、紫苑」
 呼び掛けに巡らせていた首を戻せば、何を笑っていやがると、訝しげな顔で歩み寄ってくる紅真の姿。紫苑は笑った。
「紅真、お前がいてよかった」
「はあ?」
 なぜだか突然言いたくなった。紫苑は微笑った。
『ありがとう』
 紅真が驚愕に瞳を見開く。彼が思いも掛けない事象に固まるなどそうそうあることではない。
 なんだか可笑しくて、気づけば紫苑はくつくつと肩を震わせて笑っていた。
 紫苑の笑いに紅真の金縛りが解けたようだ。笑う紫苑を睨みつけてくる真紅の瞳。屈強な兵士たちを震え上がらせるきつい眼差しも、今の紫苑にとっては笑いを増長させるばかり。
「このやろ、」
 紅真が紫苑に掴みかかる仕草で腕を伸ばしてくるのを、紫苑は避けなかった。縺れ合い、二人の距離が酷く近くなる。
「遅ェんだよ、バーカ」
 小声でささやかれた紅真の言葉を聞き洩らさずにおれたことに、紫苑はそっと、口角を上げるだけで微笑んだ。
 ――よかった。
 思いだけならずっとずっとあった。くすぶり続け、きちんとした形をとれないまま、ずっとずっと。それが漸く言葉にできた。思いを乗せた言葉にできた。
 そのことが、本当に良かった。
 同じ言葉なのに、ああ、籠める思いが違うだけで、こんなにも違った意味になるのか。紫苑は感じていた。
 相変わらず、壱与のレンザへ込めた思いのほどを理解することはできない。けれど、紫苑は思ったのだ。紅真が云っていた通り。その思いを贈った側と贈られた側。双方がいいなら、それでいいではないか。
 思いは言葉にされ、さらにその力を強めたようだった。
 まるで、このまま強くなるばかりの陽射しのように。夏を迎え、暑く、暑くなるのだろうか。




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「「I OVE YOU」を訳しなさいバトン」。フリーだったので勝手に貰ってきてしまいました。
「私は、貴方を、愛してる」これを邪馬台幻想記のキャラたちが表現するならどのように言葉にするのだろう。
考えたらちっちゃな作品になりました。ぷちっとすぎて小説というより小噺。最近の作品はどれも子ネタの域を出ません。
ちょっと長くなるけどそれぞれに軽く解説。語るに落ちてるところもあるので、読まない方がいいかもよ。
壱与:これしか考えられませんでした。
レンザ:彼は普段から愛を叫び主張しているので、要らないかな〜って。だって、彼は言葉にするよりも如実に、態度で語ってる。『壱与のための献身』は、きっと生涯続くでしょう。
紅真:かなり悩みました。なんか、彼は気持ちを隠しはしないのに、素直じゃない。そんな感じ。独占欲が強くて、子供みたいに我侭で。そして、心配してる。
シュラ:オリキャラと絡ませてばかりで済みません。彼は、愛した人の夢が叶って、そして喜んでほしかっただけなんだ、きっと。
紫苑:紅真同様ものすごく悩みました。一番難しかった。なんというか、語彙とかユーモアが少ないイメージ。好きを好き以外に表現する方法を知らなさそうで…。
written by ゆうひ 2009.04.23-29