◇ 序章 ◇
---*20030411*--------------------------------------------------------------ゆうひ---
やわらかな陽射しがまだ色づき始めたばかりの若葉の群れをさらに明るく写していた。 頃は新春。 若葉の頃。 二人と一匹が大木に凭れて眠っている。 一人はすらりとした体形の、豊かな土壌色の髪の少女だった。日に焼けた肌や朱く色づく唇。薄桃色に染まる頬が、いかにも健康そうだった。 その少女の肩に凭れるようにして眠っているのは、少女とは対をなすかのような小柄な少年だった。白銀の髪はこの国では珍しい。ぬけるように白い肌は、少々この陽気には似合わないようにも写る。まるで冬の王のようだ。 少年の膝に丸くなって眠っているのは、少年とは違った白で統一された毛並みの犬。尾に球形の装飾をつけられたその白犬は、少年と少女、彼らの作る空間に些かの心配も無いかのように、安らかな様子で眠り続けている。 すうすうと。 彼らのおだやかな寝息が聞こえてくる。 春のあたたかな日差しの中で、人々から帰らずの森と呼ばれるそこは、どこまでも安らかだった。 そんな中で。 木の影から彼らを遠巻きに見つめ涙する黒髪の少年と、更にその少年を遠巻きに見つけどこか気味の悪いイヤな笑いをする老婆がいたことは、できれば記述に残したくは無いものだったりするが…これも私の宿命なのでこうして筆を進めることにする。 とにもかくにも。 私にはその少年少女たちのつくりあげるだろう明日(あす)を、ぜひこの目にし、この書にしたためたいと思うのだ。 これは、そこに書き加えられる、最初の出来事。 過去も未来もすべては、ここから話し始めようと思う。 今あるこのおだやかさの以前に、何があったのか。 今あるこのおだやかさの果てに、何があるのか。 これは、幻の物語りである。 |
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