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---*20030416*--------------------------------------------------------------ゆうひ---




 その手の甲に、羽のようなキスを贈ろう。
 君のその瞳を、僕に永遠に繋ぎ止めよう。

 今日は、僕と君の、始まりの日。

 真っ白な雪のように。
 無垢な雪原のように。

 まっしろから、はじめよう。



 壱与は首から上を真っ赤に染め上げた。
 彼女の視線の先には、普段笑みを見せない少年。今はどこか意地の悪い笑みで、自分を上目使いに見つめている。

 壱与は自分の左手が未だに彼の手にとられていることに気がつき、慌ててその腕を己の方へと引き寄せようと試みる。しかしその試みは緩やかなその感触からは想像もつかないほどに強い力で止められた。
 自分の小麦色の腕を掴むのは、まるで氷のように白い…彼の、美しい手。

「紫苑…くん……」

 いつもはいらないくらい大きな声が出るのに、今日に限ってそれは蚊の鳴くような声で。
 壱与は胸中で己を叱咤した。

「壱与…」

 真っ直ぐに見つめてくる蒼紫の瞳。
 手の甲に柔らかく口づけられて、壱与はますます顔を赤くした。
 そんな壱与を見て、紫苑はくすくすと小さく笑う。
 壱与はぶぅっと頬を膨らませ、顔を真っ赤にしたまま怒りの表情を作って紫苑を睨み付けた。
 どうにも迫力に欠ける。

「くすくす。悪い。でも……」

 ぐいとその腕が引かれ、壱与は紫苑に覆い被さるように倒れ込んだ。
 自分よりも背の低い彼は、けれどしっかりと自分の体を支える。

「さっき云ったのは、本当」

 耳元に囁かれた台詞に、壱与は再び顔を赤くした。



 君に愛の歌を贈ろう。
 美しい月の歌を。

 愛していると。

 永遠に、あなたに囁かせてください。




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