◇ 姫秘(ひめひめ) 2 ◇





---*20030823*--------------------------------------------------------------ゆうひ---




 少女が目覚めて世界が壊れた。
 崩れた世界を意に介さず。
 少女は頭を巡らし捜していた。
 自分を呼び続けていた声、その主を。



「聞いてよ、紫苑くん!!!!」
 猛烈な勢いで駈けて来た少女は、その勢いをまったく殺すことなく、紫苑の肩をがっし!!と掴むと、やはりその勢いのままに、紫苑の肩をぐらんぐらんと揺さ振った。
 頭蓋骨がずれているかもしれない…という感覚を遠く意識の片隅で思いながら、紫苑はそれでも律儀に返事を返す。
 「どうしたんだ…壱与…」

 壱与は紫苑より二つ年上の、紫苑の幼馴染の少女だった。
 幼馴染とはいっても、家が近所だとかそういうものではなく、紫苑とって壱与は仕えるべき相手だ。
 壱与はこの邪馬台国の女王なのだから。

 先代の女王卑弥呼――壱与の祖母が急死し、幼いない頃に両親をなくしていた壱与が女王の位についたのは、もう2年も前のことだ。それにともない、紫苑は壱与つきの護衛となった。
 紫苑は剣術の名手であるが、それでもまだ子供である紫苑が女王の護衛などをまかされた理由の一つには、年齢が近く、性別も同じということで、もっとも身近にいやすいというものもある。この女王、女王になってもそれ以前と同じ。まだまだ遊びたい年頃なのか、元気の溢れまくった気力の伴なうままに行動するので、幼い頃から側にいて、彼女に付いて行くことのできる紫苑が適任であることも確かだが。
 壱与の行動が読める人間など、紫苑くらいにはいない。

「聞いて聞いて、紫苑くん。あのね、レンザくんたら酷いのよ!!」

 やれやれ、またか…。
 紫苑は胸中で呟いて壱与には気づかれぬように溜息を吐いた。
 レンザとは邪馬台国の同盟国である、いと国の使者として、以前邪馬台国に訪れた青年のことだ。以来、壱与はそのレンザという青年と度々連絡をとっているらしいことを、紫苑だけが知っている(と、壱与は思っている)。

「それで、レンザがどうしたって?」
「あのね、今度の週末は暇ができるから会いたいなvvっていったら、仕事があるからごめんって」
「……お前も政務があるだろ(勝手に作れない暇を作るな/溜息2)」
「私が休むって行ったら休みなの!!」
「はいはい…」
「ハイは1回!!」
「……(半眼)」

 一見我侭に見えて、その実、壱与は歴代の邪馬台国女王の中でも類い稀な逸材として、多くの臣下や国民の信頼厚い。やる時はやる少女なのだ。




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