◇ よみのくに ◇
---*20040109*--------------------------------------------------------------ゆうひ---
声が聞こえる。 ぼくを呼ぶ声が聞こえる。 深水の淵から僕を呼び起こす声。 そうして、僕の目が覚める。 彼と初めて出会ったのはいつだっただろうか。僕も彼も今よりずっと幼く、ずっと狭い視界の中で。――しかし、がむしゃらなほどに懸命に、世界を走り抜けようとしていた。 前だけを見て駆ける二人は、隣り合っているのに互いの視界には映らなくて―――。あるいは、僕だけが見えていないだけだったのだろうか。今となってはもうわからない。 姉がお隠れになって、みなが慌ててやってくる。照らす光になれとやってくる。 僕は支配すべきところにあらずと意にも介さない。 弟は僕の支配の及ぶ側にいる。僕と同じように、ただ慌てふためく世界を眺めているだけだ。 ああ…この世界が今のように秩序で満たされるまでにした苦労は、たったこれだけのことで崩れてしまうのか。 僕はただ目を閉じる。 深い深い闇の世界が僕の領域。僕の支配する世界。 けっきょく、僕はこの世界を見捨てることなどできず、お隠れになった姉を呼びに行くのだ。姉が再び世界の秩序を整える。今度はなんの対策もなしに突然お隠れになったりはしないだろう。 何も見えなくて、何も聞こえない世界で、僕は永遠を生きる。 この先の世界で、僕らはいったいどう言われるのだろう。どう思われるのだろう。 この名を覚えていてくれる人は、どれほどいるというのだろうか。 僕らの夢を覚えていてくれる人は、どれほどいるというのだろうか。 僕らの夢は、いつまで続いてくれるのだろうか。 声が聞こえる。 僕を呼び覚ます声。 目覚めた僕の周囲はまるで知らない世界で。 僕は再び、孤独の坩堝へと放り込まれた。 |
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