+ 方術(士) +
それと神の差を俺たちは知らない
俺たちから見れば、それは小さい頃におふくろから聞かされる寝物語りや長老方の語る伝説、大陸からやってきたお偉方の説く高尚な話の中の「神」の使うとかいう「奇跡」の力と何が違うのだろうかと思うんだ。 あんな小さな体格で、あんなにやわな細腕で、なんたって国一番の大男よりも大きな岩を軽々と持ち上げて見せたり、牙を剥く大熊を素手の一撃でのしてみせたり。紐が蛇のように動いて、小石も葉も強力な武器になっちまう。 あれと神の御業と比べようにも、俺たちみたいなのにはそれ以上のすっげえ技なんて想像することもできねぇんだから、やっぱりその二つが違うものだって思うのも難しいんだ。俺たちが話に聞かされる神々の奇跡!それはたいてい「方術」で現実にしちまうことが可能なんだ。 枯れ木に花を咲かせてみたり、風を操って竜巻やカマイタチを起こしたり、空を飛ぶことだってできるんだ。動物を操って、植物を操って、山を崩して大地を揺るがし、姿を変えることだってできる。 なあ、これを神の奇跡、御業と呼ばずに、なんて呼べばいいんだよ。 でも、それを自在に操る、ぱっと見すっげぇ弱そうな、あのすっごく綺麗な子供は云うんだ。訓練すれば誰でも、あの神の技が使えるようになるって。その珍しい――ぶっちゃけそいつ以外では、あんな髪と眼の色をした奴を俺たちの誰も見たことがない――菫色の瞳をきつくしたまま素っ気なく云うんだ。 だから俺たちは頼んだ。その技を教えてくれってさ。それがあれば、もっともっと邪馬台国のために、何かができると思ったんだ。 はじめは渋ってたあいつは俺たちの隊長と女王様に説得されて、ようやく首を縦に振ってくれた。 隊長ってのはすっごい大力で、それにあわせるようにでっかい逞しい体をしている。俺たちはずっと隊長みたいになりたくて日々鍛錬を怠ったことはない。でも、それでも全然隊長には追いつけない。いつまでたっても頼りなく思えるんだよ。 ようやく方術を教えてもらえると意気揚々としていた俺たちだが、いつまでたっても、そいつは基礎しか教えてくれなかった。あいつの云うところのもっとも基本的で簡単な技――浮石弾――以外にはこれといった技も教えてくれない。 いくら教えてもらう身だとはしても、俺たちがちょっとくらい文句を云いたくなっても仕方のないことだとは思わないか?思うだろう? だから俺たちはみんなで頼んだんだ(誰も一人で交渉に行く勇気はなかったから)。そうしたらあいつはなんて云ったと思う? 「方術は古の戦術だ。だから、兵士のお前たちそれを教えることが罪だとは思わないさ。でも、これ以上を教えるつもりはない。これは古の術なんだ。どんな強力でどんなに優れていても、もうずっと昔に捨てられ、忘れ去られた術だ。時間の流れの中で捨てられるには、それ相応の理由がある。ある日突然にすべての人がそれを忘れるわけはないんだからな。意図して使用しなくなり、語らなくなるから消えていくんだ。だから、これ以上は教えられない」 ってさ。 一方的に捲くし立てて行っちまった。俺たちよりずっとずっと若い、幼いくせして、その「古の術」を使ってるのはどこのだれだよ。なぁ? けっきょく、俺たちにはこれ以上はどうしようもない。だって、俺たちは方術ってのを見知ってるだけで、それが実はどういうものなのかを理解してるわけじゃないんだから。 ものすごい強いわけじゃないから方術を知りたいと思って、ものすごく頭がいいわけでもないから方術を教わろうと思った。自分たちの力だけじゃ、教えてもらう以上のことはできないんだ。 神様たちはさ、それを、自分たちで見つけたってことなのかな。誰に教わるでもなく自分たちで見つけて、初めてそれを目にしたのは、自分がその力を行使したときでさ。 もしそうでなくて誰かに教えてもらったんだとしたら、どこかであらかじめ見ていて真似たんだとしたら、その「はじめ」は誰なんだろう。そうしていつの間にか誰の目に見えなくなってしまったのはどうしてなんだろう。 ばあちゃんたちは神様たちはどこにでもいるっていうんだが、俺たちはそんなの見たことも感じたこともない。それを信じるのはやっぱり難しい。 雷や嵐は神様の仕業だって云うけど、だったらあいつらも神様ってことになるだろう?銀色の神のあいつとか、陰陽連の奴らとか。 だって、あいつが方術でそれを起こして敵と――そのときの奴は赤い目をしていた。あんな色の目をしている奴もそのときはじめて見た――戦っているときに見たんだ。風は唸り、大地が激しく火を吹いた。 じじぃどもの云う神様たちの力と、いったいどのへんが違うっていうんだ? 俺たちは遠巻きにそれを見てたんだ。お互いに、時に互いの術を見てこんなことをするのかって顔をして驚いてるときがあった。 ちゃんと見てたんだ。 それはつまり、あいつらは自分たちで新しい術を考え出したってことなんだろう?これからも、いくらでも応用を利かせられるってことなんだろう? そんなこと、俺たちには絶対にできない。 だって、努力じゃ補えないことってあるじゃないか。どんなに努力しても、俺たちの誰も、隊長みたいに強くなれなかった。 その戦いの跡地は、まるで災害が起きたかのような酷いものだった。こんな災害、一生のうちに一回逢えば多い方だってくらいにでかい災害だ。森がさっぱりなくなって、大地が乾いてひび割れていた。ところどころに巨大な穴が、まるで黄泉の国へでも繋がっているかのような暗黒の両手を広げているのに注意しながら、俺たちはそこを後にしたんだ。 すげぇ、すげぇ。 俺たちに云えるのはそれだけで、俺たちにできるのもそれだけだった。 だから、なぁ、やっぱり俺たちは思うんだよ。 これってやっぱり神々の奇跡なんじゃないのかってさ―――。 |
それと奇跡の違いは俺たちには判らない
----+ こめんと +----------------------------------------------------
アビヒコとかそのへんのモブキャラが語っていると思って下さい。方術でできる範囲を勝手に広げてしまいました。やっぱり範囲が広い方が戦闘手段としてはおもしろい…。 ご意見ご感想お待ちしております_2004/07/31_(c)ゆうひ |
------------------------------------------------------+ もどる +----