+ 心具(創造) +
溢れ出す何かを掴み取るように
血液が沸騰しているかのような錯覚を覚えた。いっそ錯覚などではなく現実であればよかったのにと思う自分に嫌気がさした。 そんなはずがない! そんなことがあるはずない! 情けないことに、それが俺のはじめの反応だった。しかもそれがしばらく続いた。つくづく嫌気が差した。 俺はそんなにまでも、現実と向き合うことのできない人間だったのか。そしてこんなことを思い出す俺は、過去にばかりこだわっている人間なのだ。 いつまで経っても前に進めない。 お前を追い越さないと、俺は前に進めないんだ。 お前が、俺を無視してどれだけ先に進むことができようとも。はじめから、俺のことをなど視界の隅にさえ捉えていなくとも。 悔しくて悔しくていっそこのままこの灼熱のままに体中の体液が沸騰して、焼け死んでしまえばどんなに楽かとさえ思う。このまま焼け死んで、醜く炭化した死体を投げ出してやれたら、どんなに楽だろうか。どんなに愉快だろうか。 そして、俺はその状態でまた歯噛みするのだ。 それでも尚感情の一辺も見せぬあいつの姿に、俺は悔しさとやりきれなさに歯噛みして身悶えるのだ。もう二度と動かないそこからそいつを見上げて、悔しさに、空洞となった眼(なまこ)に滾る炎を揺らすのだ。 ……。 …………。 ………………冗談じゃない!! そんな負け犬のままで終わるものか! そんな惨めな姿を晒してたまるものか! ただ闇雲に剣を振るう日々が続いた。 なぜあいつが心具に目覚める? なぜ俺には心具が創造できない? 俺には迷いなどない。願い、目指していたものは常にただ一つ。たった一つだ。 強く。 誰よりも何よりも強くならないといけない。強くなるのだ。そのための努力も、痛みも、傷も、何も厭いはしない。惜しみはしない。 それ以外の何も望んではない! ただ闇雲に剣を振るい続けた。気の流れを読むことも、それを操ることも、あいつと俺にどれほどの差がある?どれほどの技術の差がある? なんで差がつく?どうして俺はあいつに負けている?どこで、俺は負けていた? 「紫苑……」 体力尽きて地面に仰向けに倒れたままに見上げた空の色は青かった。もう少し時間が経てば、あいつの瞳と同じ色に写ろう。その後にやってくるのが夕焼けだ。 朝でも昼でも夜でもなく。ましてその間にあるものでさえないその色の時間帯をなんと呼ぶのか、俺は知らなかった。考えたこともなかった。 勝ちたい。 上に行きたい。 ああ、そうか。だからか。 だから、俺には心具創造が叶わなかった。 手を伸ばす。 より高みに向けて、手を伸ばした。 俺は勝つ。負けないのではなく、俺は勝つ。 俺が欲しいのは、負けないための力じゃなく、勝つための力だ。勝ち続けるための、すべてを砕く力が欲しい。すべてを屈服させる力が欲しい。 守るのではなく、戦うための力だ。すべてを薙ぎ払う力。 あいつが欲するのとはまったく逆の、あいつよりもずっと強力な力。暴力ではなく、凶暴な力だ。 荒れ狂う嵐のような、人々に恐怖を畏怖を与える星々ような、瞬(またた)きの瞬間のような力。 それが、俺の欲する力! 手を伸ばす。 より高みへと手を伸ばす。 眩しく輝くそれが欲しいのではなく、やがて写る冴えた光を砕きたい。そんな凶暴な力でいい。俺が手にするのは、そんな凶暴な力でいい。 拳を握り締めた。 この手に掴み取るものを見た。それが自分の心のありようだと知る。どうしようもない歓喜と嫌悪が混ざり合い、溶け合い、理解しきれぬ自分の心理に吐き気がした。 血液が沸騰するかのような、溢れ出す激しい感情がそのままに―――。 |
この心が凍てついてしまえばいいと願った
----+ こめんと +----------------------------------------------------
シュラさんが「強くなりたいという明確な信念のもと心具の力を完全に引き出している〜」とか云ってたと思います。紅真が強くなりたいと思ってたのは別に紫苑が心具に目覚めた後ってわけでもないと思いますが、少なくとも紫苑の心具に目覚めたということが起爆剤的な役割を果たしたのは間違いないのではないかな〜…と思います。それまでにもあった感情が一気に爆発した結果のような。 強くなりたいという思いがより強まった結果としての心具への目覚めだとして、「心具の力を完全に引き出す」とシュラに言わしめるからには、その「強さ」についてもまたはっきりとした「形」が形成されたのではないかなと。その明確な形となった強さがどんなものかといえば、そんなものはそれこそもう想像するしかないんですけどね。こんなものかな〜と。 ご意見ご感想お待ちしております_2004/08/18_(c)ゆうひ |
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