+ 日常 +
この理不尽はいったい…。
ある晴れた日。いや、雨が降っていようが曇っていようが…ぶっちゃけどのような天気だろうが変わらないこの日常。季節の移り変わりにも左右されることのない日々。 ここは陰陽連支部の一つ。とある森(詳しい位置は云えない。なぜなら最重要機密事項だからだ)の奥深く。今日も我々は涙を流して耐えている。 そう、あの我侭な子供達の陰に隠れて…。 ボグッ。 何かが地面に沈没した音だった。とある森(詳しいことは以下略)の奥深くにある陰陽連支部(以下支部)では日常茶飯事に響く音の一つだ。 当番制である建物の清掃に従事していたがために、聞こえた音だった。 「面倒臭い」 一言。たったの一言だ。それだけで周りにいる者たちはすべてを悟ることが叶った。 周囲の人間と揃いの(それでも個々に些細な違いはあるが)黒一色の衣装に身を包んだ少年は、自分達よりはるかに年少である。そしてはるかに凶暴であった。 そんな少年の左足の下にはこれもまた揃いの黒装束の青年(多分少年の相棒である意味保護者訳も任されている)が、地面と顔面を仲良くくっつけて伸びていた。後頭部を少年に踏みつけられたまま。 「だいたいなんで俺がわざわざ偵察なんかにでないとい・け・ね・え・ん・だっつーの」 最後の方は、ふみふみ、ふみふみと青年(多分以下略)の後頭部をぐりぐりと押し付けるタイミングに合わせながら、一言一言区切って仰る少年の名前は紅真。陰陽連での地位は別に高いわけではない。低いわけでもない。青年(多分)と同じはずだった。 ふみふみ、ぐりぐり、がしがし…少年の青年(多分)を踏みつける強さは次第に増していく。周囲の人々は無視を決め込んでいた。いつものことだからだ。 ぶっちゃけ、止めに入ってとばっちりを受けたくもなかったし…もっとはっきり云えば止められないから。 しかしここに無謀な一声が。 「紅真」 呆れたような声はまだ幼い。紅真少年と同年代だろう。変声期前の少年のものだった。 紅真少年は声のした方に顔を向け、声の持ち主である少年を視界に収めるとおもむろに顔を顰めた。青年(多分)にとってはおそらく喜ばしいだろうことに、ぐりぐりと踏みつける足の動きも止まっている。 やってきた少年はなんとも珍しい色彩を持った少年で、名を紫苑といった。本人の持っている色彩だけでも珍しいのに、それを互いに引き立たせ合う色の外套を羽織っている。ちなみに外套の色は真紅だ。 「紫苑。シダの奴はどうしたんだよ」 紅真は訊ねた。シダとは紫苑の相棒でお目付け役のような青年の名だ。ちょうど紅真にとって、彼が今まさ踏みつけにしている青年と似たような立場にいる。 そう、似たような立場に…。 「掃除当番を代わってくれるって云うから、ありがたく代わってもらった」 嘘だ。 それはいつものことだった。紫苑はいつもこうして当番をシダに押し付けていた。 ひたすらごり圧すのである。無表情で。 「やれ」 と。無言のままに。 それは複数人に幾度となく目撃されていることだった。 掃除用具を手渡されて、蹴りを一撃くらって気絶したシダを背中越しに置きざりにして去る姿も目撃されている。その数分後、シダは黙々と、虚ろな瞳のまま掃除をしていたという。そこはその日の紫苑の担当場所だった。 むしろ、彼らはこの少年が掃除をしているところを見たことが一度もない。 「ところで、お前は何をしてるんだ?」 紫苑はきょとんとしたつぶらな瞳で訊ねる。紅真と彼に足蹴(あしげ)にされている青年(多分)を交互に見やりながら。 「ああ、このアホが俺に偵察に行って来いってうるせぇんだよ」 「偵察?」 「ああ。なんでも、北の方に随分とでかくなった国があるとかなんとか」 「なんで偵察なんて。さっさと崩しちゃえばいいのに」 「だよな〜」 ……。 いつもこうなんだ。いつもこうなんだよ!! 「別に偵察自体はいいけど…なんでそれを「俺が」やらないといけないんだよ」 「まあな。でも、指令だろ?」 紫苑は首を傾げた。表向き、こちらの少年は任務とか指令とか、上から与えられる命令には絶対服従である。 「偵察に行って一度戻ってくるってのが面倒臭いんだ。どういう状況だったらどうしろって、云われてれば、勝手に判断して一度の任務ですむんだ」 「確かに…一度の任務ですべてが終われば楽だけど」 「だろ?」 「でも、ことは劇的ならいいってものじゃないから」 「お前、なに急に建前で話してるんだ?」 紅真は半眼になった。先ほど紫苑はさらりと言ってのけたはずだ。 「さっさと崩しちゃえば楽なのに」と。 それが次の段からは妙に慎重派、従順ないい子な意見がぽんぽん飛び出す。 「……紅真、後ろ」 「後ろ?」 紫苑は目だけ笑って云う。 紅真はいぶかしげに首を巡らした(RPG調)。 「……」 紅真は半眼になった。 彼の心の声が聞こえる。 (何しに来やがった。あの暇人) 「紫苑、紅真、仲がいいな」 にこにこと嬉しそうにやってくるのは、彼らの上司(兼、本人は保護者だと信じている)シュラである。ゆっくりと威厳たっぷりに歩いてくるその姿に、周囲の陰陽連構成員達は頭をたれて挨拶をする。 紫苑はにっこり顔。紅真もまた笑顔を作った。 「どうだ、修行の方は順調か」 「ああ。もう少し忙しくても大丈夫なくらい」 「実践の方が腕が上がるタイプなんだよ」 「そうか、だが、日々の雑事も大切な修行のうちだ。そちらの方もきちんと頑張っているか?」 「「もちろん」」 「みんなに聞いてみても大丈夫だよ」 「そうか」 シュラはにこにこ笑って去って行った。支部ごとの状況の報告を受けるために。 紫苑と紅真はにこにこ笑顔で見送った。びくつきながらその様子を見ている周囲に圧力を掛けながら。 ふみ。 シュラは足に何かを踏みつけたのを感じて視線を転じた。紅真につけていた青年(多分から確定へ)が地面に顔をめり込ませてのびていた。 「何をしているんだ?」 シュラは嫌そうに顔を顰めた。 紅真がてとてとと駆けて来て、シュラの背後から覗き込む。呆れたように云った。 「あれ、こんなところにいたのか?」 「紅真、どうしてこんなことになってるんだ?」 「さあ。今朝から姿が見えないから探してたんだ。今日はこれから偵察の任務があるから。こいつが見つからないせいで予定がどんどん遅れたんだよ」 「まったく、こいつは(なんのためにつけたお目付け役だかわからないな)…」 こうして青年(確定)は陰陽連のトップから評価を格段に下げられたまま。そのことに気づきもしないで気絶したままその日を終えた。 「仕方がないな。紫苑、紅真と行って来い」 「いいけど、今日は清掃の当番だよ。さっき、日々の雑事も大切だって云ってなかったか?」 そう、不思議そうに云う紫苑の表情は「純真無垢」を絵に描いたようなものだった。 「偵察の方が重要だからな。雑用ならはシダにでもやらせておけ」 「わかった。あ、そうだ。偵察のついでやっておくことはある?」 「そうだな、何も知らないようならさっさと崩してしまってかまわない。方法はお前たちに任せる」 シュラが答えると、今度は紅真が了解の意を示した。 「わかった。今度からはそう伝えてくれよ。シュラも一々指示を出さないといけないなんて余計な手間になるだろ?」 「忙しいもんな」 紅真の言に紫苑もよい子の微笑付きでにっこりと付け足す。 シュラはそんな二人の、自分のことを気遣う献身的な様子に微笑って答える。 「そうだな。まったく、聞くほうもお前たちのようにそこまで気を回してくれると助かるんだが」 こうして、今度こそ、シュラは二人の少年達の前から去って行った。 シュラの背中の見えなくなったところで。 陰陽連構成員達は無言の圧力に凍り付いていた。 本当のことを報告したら、生きたまま地獄行き。 誰かさっさと偵察に行って来い。 ついでに掃除も完璧にこなしておけ。 二人の少年は何も云わない。何も云わないのに、彼らが云いたいことはありありと理解できてしまう。 二人の少年は連れ立って去って行く。きっとこのまま数日間は戻らない。どこに行って何をしているのかはわからないが、探さない方が身のためだった。 それはまだ少年達がここへ来たばかりの頃のことだ。その身勝手さに見かねた年長者が、お説教をするためにも二人を探しに行った。 その数日後、その年長者は口元に笑みだけを浮かべて帰ってきた。全身が土気色になり、眼球が飛び出しそうなほどに見開いていた。やがてさらにその数日後にふらりと帰ってきた少年達を見るたびに震え、とうとう発狂して闇の中へと消えていった。 ある晴れた日。いや、雨が降っていようが曇っていようが…ぶっちゃけどのような天気だろうが変わらないこの日常。季節の移り変わりにも左右されることのない日々。 ここは陰陽連支部の一つ。とある森(詳しい位置以下略)の奥深く。今日も我々は涙を流して耐えている。 そう、あの我侭な子供達の陰に隠れて…。 そう、あの凶暴な子供達の謎に怯えて…。 |
誰か安らぎをくれ!(泣)
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陰陽連のモブ(仮面)です。陰陽連での紫苑とか紅真とかの様子と、モブたちの悲しき日々ですか? ギャグですよ、ギャグ。ここでは紫苑や紅真は最強(凶)おこちゃまです。シダとかはいじめられ(なぜか不当にこき使われ)てるんです(笑)。 ご意見ご感想お待ちしております_(c)ゆうひ_2004/12/23 |
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