邂逅




邂逅 月代国には一つの予言があった。

「一人の少年が光を求め、この国を滅ぼさん」

予言から三百年、月代国の皇家に一人の男の子が生まれた。
赤ん坊の名は紫苑。
髪は美しい銀、眼は人の心を見透かし誰をも魅了するのではないかと思えるくらいの紫。
紫苑が生まれて五年の月日が過ぎたある日。
月代国に他国の皇家が同盟を組む為にやってきた。
紫苑は話し合いが行われている間、一人で庭にいた。
いつものように木陰で年齢にそぐわない内容の本を読んでいた。
其処に、一人の少年が歩み寄る。
少年は癖のある黒髪に、眼は力強い紅。
「お前、なに読んでるんだ?」
少年が紫苑の座る数歩手前で足をとめた。
「哲学と真理」五歳で学者顔負けの本を読み理解しているとは、どれ程の頭脳を持っているのか計り知れない。
勿論、少年はそんな事は考えない。
「なんだ?それ・・・・」
少年は呆れつつ行った。内容を知っているわけではないが、自分達が本来読める物ではない事は判ったようだ。
「お前、名は?」
「紅真」
紫苑は一つ頷くと自分も名を明かした。
「オレは紫苑」
これが二人の出会いだった。

二人の出会いから七年が経ったある日。
月代国に紅真達が再び訪れた。しかし、紫苑たちに再会を喜ぶ時間はなかった。
「月代国の皇家は皆殺しにしろ!だが、皇子は殺すな。生きて捕らえろ!!」
少年が兵士に向かって叫ぶ。その隣に父皇らしき人物の姿はない。
紫苑が夕方の祈りをするために一人で地価の祈りの間にいた時にそれはやってきた。
「いたぞっ!月代国第一皇子だ!!」
一人の兵士が紫苑を見つけ、他の兵士を呼んだ。
次々に兵士が祈りの間に入ってくる。
紫苑は中に紫色の長袖で胸元に赤いルビーのついた服を上には上質のシルク生地であしらったマントの礼服を纏い、湧水の中央にある祭壇で祈っていた。
その紫苑を終身に兵士が立つ。
「お前たちは何処の者だ」
紫苑は二十人近く居る兵士に囲まれているのに、威圧感を与える声で言った。
「洟斗国の者さ」
何処からか少年の声が耳に届いた。
出口近くにいる兵士が何者かに道を開けるかのように体をどかす。
祭壇付近だけに月の明かりが届くので入ってきた人物が誰なのか紫苑には判らなかった。
「洟斗国?」
紫苑は昔、聞いたことのある国名に眉を顰める。
「久し振りだな?紫苑」
やっと光の届く所に現れたのは口元を綻ばせた紅真だった。
「こう・・・ま?」
「そうだ」
紫苑は何故、紅真がここに居るのか判らなかった。
祈りの間に着くまでには何人もの兵士と侍女達が守りを固めているからだ。
よく見ると、兵士達の服には所々黒いシミが見て取れた。
紫苑はそれを見て、自国に何があったかを悟った。
「何故こんなことを・・・?」
紅真はそれには答えず、笑みを深くするだけだった。
「捕らえろ!」
紅真自身は動かず命を下す。
祖pんは伸びてくる手を払い、祭壇の傍の窪みに仕舞ってある剣を取り出した。
本来ならば、祈りの間という神域で血を流す事は躊躇われるが紫苑は剣を振った。
「捕まってたまるかっ!」
紫苑は向かってきた兵士の腕を切り落とす。
「ぎゃーーーっ!!」
その兵士は腕から血を流しながら地に伏す。
そして、次々に向かってくる兵士を剣舞を舞うかのように一撃で倒していく。
しかし、どの攻撃も致命傷にはならず兵士はその一撃で戦意を失っていく。
ある者は腕、またある者は足を失っていく。
紅真は紫苑を見て思わず息を飲む。

戦う姿はまるで剣舞
宙を舞い
時には地を駆け剣を振る
白と紫の礼服に赤が映える
その姿はまるで戦いの女神

紅真はその姿に見惚れつつも、捕らえる為に自ら進み出る。
「お前はオレのモノだ!」
宙を舞っていた紫苑が祭壇に着地しようとした所を、紅真が手にしていた鎖で足を捕らえる。
「うわっ!」
紫苑が足に絡まった鎖の所為で後ろにバランスを崩す。
「おっと」
紅真が紫苑の腕を掴んで引き寄せ腕に抱きこんだ。
「離せっ!!」
「暴れてもいいが、現状は変わらないぜ?」
考案が紫苑の耳元で囁く。
「な・・・に?」
「忘れたのか?もう、この国は崩れたんだよ。紫苑」
それを聞いた途端、紫苑の体から力が抜け声も無く涙を流した。

手に入れた

紅真は笑みを浮かべて、紫苑を抱きかかえたままその場を後にした。


「丁重に扱えよ」
紅真は自国に戻ると、紫苑を侍女に任せた。
紫苑は侍女に連れられて風呂に入られた。
「紫苑様、お召し物を・・・・」
風呂から上がると用意されていた白いワンピース状の服と袖元に花の刺繍が施された桃色のマントを侍女が着せようとした。
「良い、自分でするから・・・」
そう言って、侍女を下がらせた。
着替えが終ると自分に宛がわれた部屋へ案内された。
「これからは、ここがお前の部屋だ」
中に入ると、紅真が正面のテラスに通じる窓の前に置かれた椅子に座ってこちらを見ていた。
「何故、こんなことを?」
紫苑は部屋に足を踏み入れる。
「導きに従ったのもあるが、オレ自身のお前が欲しかった」
紅真は侍女たちを下がらせると、椅子の手すりに肘を立て腹の上で手を組む。
「もし、欲しいものがあれば揃えさせよう」
紅真が手を叩くと、扉が開いて先ほどの侍女たちが控えていた。
「さっき顔は合わせたろうが、こいつらがお前の侍女だ」
侍女たちが再度頭を下げる。
紫苑も元皇子である。
侍女に世話になった事もあったが、父親の影響か自分が出来る事は自分でした。
「とりあえず、これから夕食だ。ついて来い」
紅真について行くと大きな広間に出た。
紫苑は促されすままに紅真の隣に座った。
二人が座ると次々に料理が運ばれてくる。
なわべられた料理の殆どが紫苑の知らないものだった。
恐る恐る、手に取る。
「安心しろ。毒なんてものは入ってない」
紅真はどんどん食べていく。
紫苑も不審に思いながら、口に運んだ。
「美味しい・・・」
「当然だ」
紫苑はゆっくりと料理を消化していく。
「紫苑、お前はもうオレのものだが、行動を制限するつもりはない。だが、国を出る事は許さない。それに、外に出る時は護衛兼監視をつける」
「・・・・」
そう言うと紅真は外へ出て行った。

紫苑は翌日、昼食が終わった後早速村に出てみた。
「紫苑様。本日は私が付き人を務めさせて頂きます、イビキと申します」
紫苑は視線を向けるとさっさと外に向かって歩き出した。
村に出てみれば、皆楽しそうに生活していた。
その情景は自国の人々を思い出させた。
イビキは紫苑のその横顔を見て、美しいと思った。
紫の瞳は憂いを帯び、更に美しく見えた。
(この瞳に、紅真様は惹かれたのだろう)
紫苑は気付かないが、彼が歩く度に人々の視線を惹き付けていた。

この国では珍しい銀髪と紫の瞳。
髪は時折薄紫にも見える。
人形のような美しい姿の所為もあるだろう。
加えるなら、皇子たる気品のある物腰。

まるで女神のような姿だと人々は思いながら見つめていた。
それを遠くから見ていた紅真の瞳には苛立ちが見え隠れしていた。
紫苑は、この国に来てからいまだ一度も笑顔を見せていないが、村を歩くのが日課となっていた。
この国に来て、一月が経っていた。
「紫苑、後でオレの部屋に来い」
紅真の部屋はほかの家とは離れており、少し森に入ったところにある。
「判った」
紫苑は紅真の部屋に呼ばれる理由が判らず首を傾げながら是という返事を返した。
それを聞いた紅真は口元を緩めた。
「では、待ってるぞ」
そう言って紅真は出て行った。
紅真に来るように言われて二刻(三十分)程、経ってから紫苑は紅真の部屋に向かった。
「紅真。何のようだ?」
紅真は部屋の隅にある机に向かい、本を読んでいた。
「来たか」
紅真は口端を上げて薄く笑った。
「まあ、こっちに来て座れ。お茶でも出してやる」
言われた通りに紫苑は紅真の傍らに座る。
座ったのを確認して、紅真はお茶を入れた。
「ほら」
「いただきます」
紫苑の前にお茶が置かれた。
紫苑が出されたお茶を飲んだのを確認した紅真は、紫苑に気付かれないようにまた薄く笑った。
お茶を飲んでいる間、紅真は紫苑にこの国に来てからの事を聞いたりして時間を過ごした。
紫苑がここに来て四刻(一時間)ほど経過すると紫苑は帰ろうと腰を上げるが、足が震えて床に手をついた。
「効いてきたか」
「な・・・・に?」
紅真がゆっくりと立ち上がり、紫苑に近づく。
「遅効性の痺れ薬さ・・・」
紅真は紫苑の前に立つと、紫苑の顎を捉え唇を重ねた。
「んっ?!」
紫苑の眼が見開かれる。
「なっ、何するんだ?!」
紅真の唇が離れると紫苑は叫んだ。
「お前はオレのモノなんだぜ?如何しようが俺の勝手だ」
紫苑を横抱きにし、紅真の寝室に連れて行かれる。
床の上に紫苑を降ろすと、紅真が上に覆いかぶさる。
「何をする気だ・・・?」
紫苑の声は少し震えていた。
「お前にオレの印を付けるだけさ」
そういうと、紅真は紫苑の手首を掴んで抵抗できないよう紐で縛った。
そして、紫苑の首筋に顔を埋める。
「っ!」
考案が顔を上げると、紅色の点が目立つ。
「宴を始めようか?」
紅真が笑った。


「や・・・ぁっ」
紫苑は自分の置かれている状況が信じられなかった。
紅真の舌が紫苑の体中をくすぐる。
胸の飾りは立ち上がり、自身も既に蜜を出していた。
紅真の手が紫苑自身に触れる。
「やっ、や・・・・だぁ」
紫苑は初めての快楽に戸惑うだけだった。
「安心しろよ。気持ち良くしてやるから」
紅真が優しい声で囁く。
上下に動かしていた手を止め、紅真は紫苑を口内で犯し始める。
「ふぁっ・・・んっ!」
熱いモノに包まれ、手とは違う激しい快楽に自然と涙が流れ出す。
「ああっ!!」
その快楽に慣れていないからか、紫苑は直ぐに達した。
「はぁ、はぁ・・・」
激しい快楽に意識が朦朧としながらも、自分のモノを見つめている紅真を見下ろす。
「早いな。初めてだから仕方ないか・・・」
そういうと、紅真は懐に忍ばせておいた蜜を紫苑の蕾に指を使って押し入れた。
「やあああっ!!」
本来、排泄する機能しかない其処に異物を入れられる。
痛さは相当のものだろう。
「痛っ!こう・・・ま。やめっ!!」
そのまま、蕾を慣らし続ける。
「あんっ!」
紅真の指がある一点を掠めると紫苑の声に、痛みの中にも嬌声が混じる。
「ここか?」
そして、その一点のみを攻めだす。
「きゃうっ!や・・・ん。こう・・・まぁ」
紫苑の口からは嬌声しか聞こえなくなった。
一本だった指を二本、三本に増やす。
「そろそろ、いいか」
そう言って紅真は指を抜き、自身を紫苑の蕾に突き入れた。
「ああああ!!」
突然の圧迫感に恐怖する。
「痛いっ!やぁ、こ・・・まぁ。抜い・・てぇ・・・」
「直ぐに良くなる」
紅真はゆっくりと腰を動かし、紫苑を突き上げる。
「んんっ!」
ゆっくりと、時に激しくそれは続けられた。
部屋に濡れた音が響く。
「も・・う、だっ・・めぇ!イっ・・・ちゃぁ」
紫苑は紅真の腹に、紅真は紫苑の中にそれぞれの欲を吐き出した。
そして、紫苑は意識を失った。
紅真は紫苑の寝顔を見ながら優しげな顔で囁いた。
「お帰り、オレの半身」


「う・・ん・・」
紫苑の覚醒が近いのか、瞼が震えている。
「起きたか?」
紅真は抱き締めていた紫苑の体を離す。
「紅真!!痛っ・・・」
「今は起きないほうが良いぞ?」
紫苑は急に立とうとして腰に激痛が走った。
「誰のせいだ!!」
「おれだ。でも可愛い、お前が悪い」
「かわっ?!」
紅真は立ち上がりお茶を入れて戻ってきた。
「咽喉が渇いてるだろう。飲め」
紫苑は警戒しつつも、それを飲む。
「・・・お前。あんな目に遭ったのに、まだオレからの与えられた物をよく口に含めるな?」紅真は悪戯を仕掛ける子供のように笑った。
「あんな目に遭ったから、もう何が起きても同じだ!」
そう言って、紫苑は出されたお茶を飲み干した。
紅真は紫苑から空の湯飲みを受け取り、片し始めた。
「紫苑。憶えてるか?オレたちが始めて逢った日の事を・・・」
体のダルさと腰の痛みで、横になったまま紅真を見る。
「ああ」
紫苑と紅真が始めて逢った時、紫苑は難しい本を読んでいた。
紅真は紫苑の読書の邪魔をしないように紫苑の隣に座った。
「お前、なんでそんな顔をしてるんだ?」
本を読んでいた紫苑が紅真に話しかけた。
「なに?」
「寂しそうな顔してる。自分の片割れを失くしたみたいな顔だ」
「―――そうかもな」
そう言って、紅真は立ち上がり去って行った。

「その片割れを探していたのさ。そして、やっと見付けた」
「・・・それがオレか?」
「そうだ」
「だからって、こんな事するなよ」
紫苑の体のあちこちには、纏っている布で隠れてはいるが紅色の印が見え隠れする。
手首には薄っすら痣の様なものが付いている。
「悪かったな、手縛って・・・。痕付いちまった」
「そう思うならもうやるな」
考案が紫苑の手首に触れるだけのキスをする。
「もう離さないぜ?」
「オレはお前の半身なんだろう?紅真・・・」
二人は朝日に包まれるように一時の眠りについた。

終焉





----+ こめんと +-----------------------------------------------------

 麟飛様から交換こvvで頂きました。「紅真×紫苑でおまかせ」などというなんとも無責任なリクエストを出したにもかかわらず、こんなにも素晴らしい作品を、本当にありがとうございました(多謝)。
 私には永遠に不可能な耽美な様が美しくて美しくて…。もう惚れ惚れ惚れです。素敵〜!!(←五月蝿い)。なんかまだまだこの作品には深い様々な背景がありそうな感じがしませんか?(わくわく)。
 紅真は一目惚れですよ!!間違いないです。紫苑もそうじゃないかな〜とか。だって、なんだかんだいって紅真の仕打ちのすべてをあっさり受け入れちゃうんですからね。傍若無人な我侭王子の紅真は、一見紫苑をリードしているようで、紫苑の尻に敷かれてるんですよ(笑)。紫苑の広い心に狭量な彼は飲み込まれてしまうのですよ〜。
 麟飛様の素敵小説が読めるサイトはこちらから(踊る大走査線と鋼の錬金術師)。
 麟飛様、本当にありがとうございました。

---------------------------------------------------------+  +----