+ それは憂鬱と始まる +










物心ついたときには、彼が隣にいた










 僕たちの母親同士が親しかった。だから、僕が物心ついた頃には、すでに彼は僕の隣に常にいて、彼の隣には常に僕がいた。
 僕らは二人でいつも約束してた。

 「ずっと一緒にいようにね」…って。

 それは二人の約束。
 僕らにとって、互いがその隣にいることは当たり前で、それがずっと続くということも当たり前で、少なくとも、僕はそれがずっと続くものだと欠片も疑ってなどいなかった。





 幼年学校には六歳で入学するのが普通である。
 「名門」と呼ばれる学校や高等学校付属のところであれば試験が必須であるが、そうでなければ年齢さえ達していれば誰でも入学が可能だ。にもかかわず、あえて試験を受けて入学する生徒が後を立たない学校が存在するのはいつの時代も変わらない。
 キラ=ヤマトとアスラン=ザラ。この幼馴染二人が通う学校も、そんな名門校の一つだった。―――しかもランクの高さ、入学の難解さは世界中ひっくるめても一、二を争う。
 十三歳まで幼年学校に通い、それからさらにその上の学校へと進むのである。もちろん、希望があれば学校へ行かずに就職したって何の問題もない。幼年学校を卒業すれば――特にコーディネイターは――成人したとみなされるのだから。

 キラ=ヤマトは今年で十六になる。明るい茶の髪に、大きな紫電の瞳の愛らしい少女だった。彼女の世代では珍しい第一世代のコーディネイターであり、現在は幼年学校からエスカレーター式であがったカレッジに通っている。
 専門はプログラミングだが、別段その専門職に進もうとは考えていないらしく、現在のところ夢は模索中といったところであるらしい。

 彼女には幼馴染が一人いる。名をアスラン=ザラ。年はキラと同じで、くせのある紺の髪と翡翠の瞳の凛々しい少年だ。彼は第二世代のコーディネイターであり、その父は政府の高官、母は大富豪の一人娘である。キラと同じカレッジに通い、成績は入学時より常にトップ。現在は生徒会長を務めるという優秀さである。
 キラとは母親同士が仲が良く――とは言っても、キラの母はごく普通の家柄の娘で、ナチュラルである。アスランの母とは幼年学校で同じクラスになり、それ以来の親友であるそうだ。キラがコーディネイターとして生まれたのは、アスランの母とキラの母が親友同士であったということも大きく関係しているのだろう――物心つく以前から顔を合わさない日はないといった状況中で過ごしていた。

 ある年までは。
 現在、二人は同じ学校に通いながらしかし、その関係は絶縁状態である。

 そんなある日のこと、キラの父は仕事の関係で今住んでいる土地を遠く離れなければならなくなった。母は父についていくという。そこはキラが現在通う学校にこのまま通い続けるには不可能な位置にある。しかしせっかく入った名門校。わざわざ転校するのももったいない。学校には寮もあるが、季節的にも寮への移住の募集はしていない。しかも現在満室。一人暮らしは、両親が共に心配だからと反対した。
 八方塞り。
 そんな中で一条の光…解決策を与えてくれたのが、キラの母の親友であるアスランの母であった。彼女がキラを預かってくれると申し出てくれたのだ。

 キラの母はもちろん、父も長年のご家族付き合いで気心が知れている。願ってもない申し出であったため、喜んでその好意を受け入れた。
 ただ一人。
 浮かぬ顔をする娘の様子に気がつくこともなく。





 キラの両親が父の転勤先へと出発するその日の午後。キラは両親を空港で見送ってからその足でザラ家へと赴いた。
 正直にいえば、その心はひどく浮かない。できるのであれば、このまま両親についていくか、さもなければ今まで通りの家に一人で生活を続けたいところだ。しかし、それをするには彼女は両親を愛していたし、無用の心配をけることもできなかった。

 目の前にあるのは自分の家とは比べ物にならないほどに豪奢な邸。キラは一つ溜め息を吐き、それから意を決したように一歩、足を踏み出した。
 今日からここで、彼女の新生活は始まる。
 重く、憂鬱に。










気がついたときには、彼は離れていた










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 どこで切ればいいか分からない…。
 感想ください。切実にください。反応ないと怖くて怖くて…。---2003/03/25

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