+ asuka +
--angels...d
その彩に目を奪われた
その腕に瞳を閉じた
あまりの幸福に
罪悪感さえ抱きながら
近く林立する巨大な建物群が見え始め、アスランは人の気配の見受けられない砂浜に足を下ろした。背に具現していた朱色の翼が霧散していくのを感じる。 降り立った砂浜のすぐ前方には森になり、その更に奥に見える建物群が地球の人々の基本的な生活を営む上での建築物であることは、すでに知っていた。たいして深くもなさそうな目の前の森を抜ければ辿り着くだろうと一歩を踏み出しかけ、彼は驚愕に目を見開いた。 木の影から姿を覗かせるのは、明らかに「人」。 (マズイ!!!) 動揺が彼の全身を支配し、アスランは緊張に体をこわばらせていた。 その人影は迷わずに、動揺した様子も驚愕の様子も見せずに、アスランの方へまっすぐと歩み寄ってくる。 アスランの同様と困惑はますます深まるばかりだった。 「こんにちは。精霊界からの方ですね。僕の名前はキラ。妹のカガリからお話は伺っています。―――あなたは…朱鳥のアスラン…さん、で、あってます…か?」 「えっ、いや、あ、あってる…けど……」 「よかった」 陽の下(もと)に現れたのはさらさらとした亜麻色の髪に、紫水晶の瞳の少年だった。やわらかな、それでいて楽しそうな微笑を伴って、アスランに語りかける。 キラと直ったその少年の言葉に驚き、アスランはただ肯定する言葉を紡ぐのが精一杯であった。 アスランの肯定の返事にほっとしたように安堵の吐息と微笑をこぼしたキラに、アスランの行動が跳ねた。しかし、混乱の極みにいる彼は、それに気づきもしない。 キラは精霊界のことを知っている。そして、それまでの話会に出席した地球の皇女であるカガリを妹と呼んだ。 ようやくそのことに意識がまわり、アスランはキラの正体をおぼろげながら察することができたのである。それでも、まだその聡明な頭脳は混乱の只中にあるらしかった。 彼はまったくどうでもいいことを口にした。 「…たしか、カガリ殿が「姉」君ではなかったか?」 カガリ皇女には双子の「弟」がいる。と、いうのが、アスランの知っている情報であった。 双子には本来、上も下もないのだから、そんなことは本当にどうでもいいことであったのだ。それでも、アスランはそんなことしか言葉にできなかった。 何か得体の知れない力によるのだろうか。キラから目が放せない。 不躾なほどにまっするぐと見つめているアスランの様子に、まったく気分を害した様子もなく。あるいはそんなアスランの様子にすら気づいていないのかもしれない、キラは腕を組んで頬を微かに膨らませて見せた。 「カガリはいつもそう云うんだ。絶対、僕の方がお兄ちゃんなのにさ」 「どうして?」 「だって、僕の方が絶対カガリよりしっかりしてるもん!!カガリはいつも僕を子ども扱いするんだよ」 ぼっーっとしてるとか、危なっかしいだとか、お人よしだとか、変な奴だとか…。 キラはカガリに云われてきたのだろう、自分への評価を列挙しながら、だんだんと眉間の皺を増していく。 拗ねたような表情が可愛くて、アスランは思わず笑みをこぼしていた。 「あっ、酷いよ、アスランさん!!なんで笑うの?!!」 「ああ、ゴメンよ、キラ殿。笑うつもりはなかったんだけど…つい、ね」 「む〜。まぁ、別にいいけど。あ、僕のことはキラでいいですよ」 「それじゃあ俺のこともアスランでかまわないよ、キラ」 「うん、アスラン」 二人は笑い合った。 なんだか気が合いそうだとも思ったし、異世界に「友人」と呼べる存在ができたことによるものなかもしれない。 心が温かくて、ただただ嬉しいのだ。 幸せだと感じる。優しい気持ちになる。 だから、自然と笑みがこぼれてくる。 「それじゃあ、また後で」 「ああ、楽しみにしてるよ、キラ」 「うん、僕もだよ、アスラン。初めて話会に出席するからちょっとどきどきしてたんだけど…君にあえて本当に良かった」 「そういえば、キラはなんでここに?」 「時間はまだあるでしょ?ここは大天使王のマリューさんが治めてるエリアなんだけど、気候も穏やかで海もきれいで…落ち着くんだ。だから、ぎりぎりまでここで気分を落ち着けてから、話会に臨もうと思って」 「そうか。…たしかに、きれいなところだね」 「でしょ?」 アスランが背後で波打つ海に、抜けるほどの青空に、森林と、その奥の建物群に視線を巡らしながら肯定すると、キラはまた、華が綻ぶような笑顔で微笑む。 その微笑を向けられることが嬉しくて、アスランもまた微笑んだ。 そして、二人は二言三言の言葉を交わし、今度こそ、分かれた。 与えられた宿泊のための建物に戻る途中に見つけた草原では、風が穏やかに駆け抜け、あまりにも気持ちよさそうで降り立つ。 全身で風を感じながら、瞳を閉じ、先ほどであった少年の笑顔を思い出す。 またすぐ、キラと出会える。 それを考えると、少しでも早く刻が進めと急かす心がわかった。 遠くから自分の名を呼びながら駆け寄ってくる、聞き覚えのある声に瞳を開ければ、そこには予想通りの人物。若草色の髪のその少年は、アスランと同じく精霊界からやってきた。こちらは藍魚の代表者、ニコルだ。 それから彼と、此ノ花ノ国の女王ラクスと談笑を交わし、とうとうやってくる。 初めて出会ってから、三日もたってはいない。 それなのに。 たったそれだけ出会えなかっただけで、こんなにも心が辛いのだ。 会えることが、こんなにも幸福なのだ。 二人は再び微笑を交わした。 |
It is still held.
----+ あとがき+解説 +---------------------------------------------------
いろいろとはしょってむりやり終わらせた感のある序章。続きはあるけど…どうしようかな。だんだんと自分がどういう表現でこの話を書いてきたかが分からなくなってきて、書くのが難しくなってきました。やっぱり一気に書き上げればよかったな。時間がなかったからしょうがないんですが。最後の一文は「それでも抱かれていたかった。」です。 ご意見ご感想など頂けたら嬉しいです---2003/08/10 |
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