+ asuka +
--angels...a
















朱るいその羽と
温かなその翼
希んでくれるのなら
この身が燃え尽きてもかまわない




















 そっと降り立ったその大地を踏みしめて、吹く風をその身に感じる。肌に熱もをもたらす陽光を浴び、微かに香る草花の匂いが鼻腔をくぐる。
 アスランは全身で、地球を感じていた。

 世界は四つに分かれている。
 一番上に精霊界。その下に地球。その下に此ノ花ノ国。最後に零(れい)。
 精霊界には世界を支配するほどの力を持った者たちが、地球には物質を支配する力を持ったものたちが、此ノ花ノ国には支配ではなく、ただ、優しい思いを大切に感じる者たちが、そして、零には虚無なる者たちが、それぞれの世界を侵すことなく文明を築いてきた。
 それぞれの世界を侵すことなく…というのは、ただそれぞれの世界の存在を知らなかっただけのことである。最近になって、それぞれの世界が互いの世界を認識できるようになったのだ。
 しかし、それもまだ一部のもの―――それぞれの世界での権力階層のものたち同士でのこと。一般には何も知らされていない。

 精霊界では現在、朱鳥(あけとり)、白蛇(しろへび)、藍魚(あおざかな)、黄獅(こうのし)の四種族が勢力を振るっており、それぞれの族長と、多種族の族長が集まり会議を開いて界の運営を行っている。四種族はその会議に毎回出席するが、他の種族は数年ごとに交代で出席する(国連の常任理事国と非常任理事国みたいだと思ってね)。
 地球では皇族が一つあり、それが地球を治めている。七つの大陸と百の島があり、大陸はさらに十三の区分に分けられる。それぞれを直接治めるのは皇から任じられた(という形を形式上とっている)王である。この王は地球が今のように皇族のもとにまとまった一つの世界ではなかった時代に、それぞれの民族の王ないし族長であったものたちの末裔であったり、現在も存在する民族間の中で選ばれた代表者であったりする。皇が任じ…という形式をとってはいるが、そこには皇の介入がまったくないのが現状である。もちろん、その人柄があまりに問題のあるときには、皇を中心に各王たちによる調査などがなされることもあるが。
 此ノ花ノ国には女王が一人いて、その人がすべてを治めている。
 零には王や長というようなまとめるものも、部族や民族と呼べるようなものもなく、個人が存在するのかさえも不明である。そこには意思があるようで、しかし形がない。混沌と秩序の混同した世界である。

 四つの世界が相互に明るみになってから、それぞれの支配階層での話し合いがもたれるようになった。
 はじめは精霊界で、次は此ノ花ノ国で、そして今回は地球で。零で行われる予定はない。あそこは世界とは呼ばれながらも、しかし他の三つの世界とは明らかに性質を異にしており、零と文明的に…などというのは無理だと、零を除く三世界のいずれも判断している。
 零とコンタクトをとるということは、自分たちの住む「世界」と話をするようなものだ。

 アスランは朱鳥の族長の子として、今回の話し合いに出席するために地球へやってきていた。

 軽く地面を蹴るようにすると、彼の背中から朱色の翼が姿を現し、そのまま彼を空中へと止(とど)める。彼を中心に風が円を描く。

「―――アスラン―――」

 遠くから彼を呼ぶ声がして、アスランは顔を上げた。
 若草色の少年が駆け寄ってくるのが見える。アスランと共に地球での話し合いに出席しに着た、現藍魚族長の子、ニコルだ。
 彼はアスランより僅かに年少であったが、それで引けをとるかといえば、まったくそんなことはない優秀さだった。

「アスラン、こんなところにいたんですね。もうすぐ話会が始まりますよ。イザークもディアッカも、貴方の姿が見えないのでイライラしていますよ」
「ディアッカもか?」
「いえ…訂正します。主にイザークが、ですね」

 イザークとディアッカ。彼ら二人もまた、精霊界からアスランやニコルと同じ理由によって地球にやってきている。というか、四人は一緒にやってきたのだ。
 イザークは白蛇の族長の子。
 ディアッカは黄獅の族長の子。
 二人はアスラン、ニコルよりも僅かに年長で、同年齢だった。そのためというわけでもないだろうが、二人はどちらかといえばよく一緒にいる。
 ただ単にイザークが、アスランやニコルのことをディアッカ以上に嫌っているだけかもしれない。

「まあ、時間に遅れるって云うのは、俺も本意じゃないしな。―――おとなしく戻るよ」
「そうしてもらえると、僕としても助かりますよ、アスラン」

 二人は軽く笑い合う。
 風は相変わらず穏やかに、円を描く。

「この間の此ノ花ノ国も美しかったけれど、この地球というのも、負けず劣らず、美しい世界ですね」
「ああ……」
「僕らには…少し小さすぎますけど……」

 それぞれの世界にそれぞれの生物が生まれ、進化した。
 生物はその世界に順応して進化した。
 精霊界は、広大で強大。厳しく、激しく。
 そこに生まれた生物たちは、生き抜くために強く、強く、なった。

「地球と此ノ花ノ国…そして俺たち。優劣などつけようもないが、力だけならつけられる」
「本当は、関わりあうべきではないのかもしれませんね」

 空を仰いだ。
 流れる雲は、世界の違いなどないかのように。
 おだやかに、たおやかに。
 流れ往く。

 このまま世界がそうあってくれたらと。
 どこかで誰かが考えた。

 二つの影が並んで歩みだした。















it was silly of him to go there again.















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 あとがき+解説 +---------------------------------------------------

 アスキラですよ。この話。次はキラサイド。本当は一話完結のつもりだったのに…。長くなりそうで気力がね…(汗)しかも最後はバッドエンドッぽいかも?(でも表用に書き始めたから裏には回しません)
 サブタイトルのangelsは第一階層とか序章とかの代わりにつけました。だから「序章の一」くらいによんどいてください。
 此ノ花ノ国は妖精さんの国みたいなイメージで。
 藍魚はニコルだから藍は碧の方がいいかな〜?と思いつつ…藍を先に採用したのでそのまま(イメージの色がそれだかから)
 白蛇はどちらかというと「龍」みたいなイメージで。
 最後の英語は…間違ってたらごめんなさい。一応辞書見て書いたんですけど…(「彼は愚かにもまたそこへ行った」って読むの。たぶん)上下の行文は物語りを先行しています。つまり、これから先こういう話になるよってことを示している予言みたいなもんです。
 ご意見ご感想など頂けたら嬉しいです---2003/08/03

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