今日はお家でお留守番です。
たった一人でお留守番。
初めてのお留守番ですけど…。
大丈夫。
だって、自分はもう子供じゃありません。
紫苑くんと紅真くんはお隣さん同士。
今年で二人とも五歳になる仲良しさんです。
ご家族ぐるみのお付き合いは二人が生まれる前からで。
二人はいつも一緒に遊びます。
でも今日はダメ。
紫苑くんはお家のお留守番を頼まれているのでした。
幼稚園から帰ったら、きちんとお家に居なければいけません。
幼稚園から帰ってきた紫苑くんは、出掛ける直前のお母さんに再三のお留守番の確認をさせられました。
「い〜い?紫苑。お母さんが帰ってくるまで、絶対に家の扉を開けちゃダメよ」
「大丈夫だよ。ちゃんと分かってるもん」
紫苑くんは頷いて答えます。
でもお母さんはやっぱり心配です。
こんなに小さな紫苑くんを一人でお留守番…やっぱりお隣さんに預かってもらおうかしら?
それとも一緒に連れて行った方が…。
そうは思うものの、初めてのお留守番に意気込んでいる紫苑くんの決意は固く。
「もうボク子供じゃないよ。おるすばんくらい一人できちんとできるよ」
そう言い張って譲らないのです。
困り果てたお母さん。
御留守番を紫苑くんに任せる事にしたものの、やはり何度も同じ事を確認してしまいます。
「お夕食はテーブルの上にあるからね。温め方は分かる?」
「もうっ、大丈夫だよ。何度も確認したじゃないかぁ」
お母さんのしつこい同じ言葉の繰り返しに、紫苑くんはぷくっと頬を膨らませて抗議します。
こう見えて紫苑くん。
けっこう短気なのです。
「だってお母さん心配なのよ。…それじゃ出掛けるけど、本当に気をつけるのよ」
「それはボクのせりふだよ。お母さんこそきおつけてね」
そう云って、紫苑くんはお母さんを見送って。
しっかりと家のドアに鍵をかけたのでした。
紫苑くんは自分のお部屋にいました。
いつもならお隣の紅真くんと遊んでいる時間。
あっという間に時間が経って、すぐに夜になってしまうのに…。
今日はなんだかやけに時間が経つのが遅く感じます。
一人で遊んでいてもすぐに飽きてしまって。
とくに遊びもしないまま、紫苑くんは出した玩具の数々を片してしまいました。
ご飯をレンジ暖めて、もそもそとちょっと早めのお夕飯を食べ始めます。
一度は冷えてしまったせいでしょうか?
今日のご飯は紫苑くんの大好きなハンバーグなのに…。
ちっともおいしく感じません。
あたりはとっても静かで。
静か過ぎて。
心なしか、電気の光までもが小さく弱いものになったように思えます。
薄暗くて寂しい所。
ここは自分のお家のはずなのに、全然知らないところに迷い込んでしまったかのようです。
紫苑くんはまだほとんど食べていないにもかかわらず、ご飯を食べる手を止めました。
ぼんやりと俯いたまま動きません。
どれほど経った頃でしょうか。
小さな物音が聞こえたような気がして、紫苑くんはようやく顔を上げました。
はっとして顔を上げ、聞き間違いかと辺りを見回します。
何かが落ちたり倒れたような様子はありません。
やはり聞き間違いだったのでしょうか?
そう思ったとき。
トントン。
玄関の方で扉を叩く音がします。
お母さんはもちろん、お父さんもまだ帰ってこないはずです。
紫苑くんは一瞬びくりと肩を上げ、恐る恐る玄関の方へ顔を向けます。
いつもは、お家を訪ねて来る人は扉を叩かずにインターホンを押します。
そちらの方がきちんと聞こえるから当然です。
紅真くんもそのお母さんも。
紫苑くんのあまりよく知らないお父さんお母さんの知り合いの人達も。
みんな家に来た時は扉をノックしたりはしません。
紫苑はそろそろと、慎重な足取りで玄関の前までやって来ました。
扉の前に立つと。
「紫苑!居るんだろ!!早く開けろよー!」
紫苑くんはびっくりしました。
聞こえてきたその声は、聞きなれたほどに憶えのある声。
「こ、紅真?!」
そう、お隣の紅真くんの声だったのです。
お母さんの云いつけも忘れて。
紫苑くんは慌てて扉を開けました。
「よぉ、紫苑」
扉を開けると、紅真くんは両手いっぱいに何かを持ってそこに立っていました。
いつもと何も変わらぬ笑顔でそこにいます。
紫苑くんはびっくりして、思わず尋ねました。
「どうして紅真がここにいるんだ?それに、その荷物…」
紫苑くんが呆然として尋ねると、紅真くんは勝手知ったるなんとやら。
紫苑くんのお家に(ずかずか)入って来ながら答えます。
「ああ?なんでって、おばさんに頼まれたんだよ」
「お母さんに?」
紅真くんの云うおばさんとは紫苑くんのお母さんのことです。
不思議そうに小首を傾げる紫苑くんに、紅真くんはさらりと云います。
「ああ。今日、紫苑一人でるすばんしてるから、様子を見に行ってくれって」
厳密に云うと、紫苑くんのお母さんがそれを頼んだのは紅真君のお母さんになのですが…。
紅真くんは彼のお母さんが紫苑くんのお家に行こうとするのを押し止め
自分が代わりに行って来ると、お母さんから無理矢理紫苑くんへの差し入れの荷物を奪ってやって来たのでした。
お母さんから何も聞かされていなかった紫苑くん。
なんだか信用されていなかったのだというような気がしてきて、複雑な気持ちです。
神妙な面持ちで俯いて、何やら思案顔。
そんな紫苑くんの事など露知らず、紅真くんは紫苑くんに逢えて嬉しくて仕方がありません。
毎日、ほとんど一日中、一緒にいる二人。
たとえ逢わないのが今日一日だろうとも。
たとえ幼稚園でもずっと一緒だからって。
やっぱり少しでも多く一緒にいたいのです。
だから紅真くんは無理矢理にでも紫苑くんのお家に来たのでした。
紅真くんは笑顔全快で紫苑くんに語りかけます。
「なんだよ。食事中だったのか?じゃあオレも食べるからさ。さっさと食べて遊ぼうぜ」
「え?」
紅真くんの言葉に、紫苑くんは再びきょとんとして小首を傾げました。
「紅真、家で食べなくていいのか?」
それに遊ぶって…。
もう夜です。
子供二人だけでいつまでも遊んでいて良い時間ではありません。
紫苑くんがそう言うと、紅真くんは笑いながら答えました。
「大丈夫だって。今日オレお前ん家(ち)泊まるもん」
さらっと爆弾発言です。
紅真くんの両手いっぱいの荷物は、紫苑くんへの差し入れの他に、紅真くんのお泊まりグッズも入っているのでした。
「けっこうおもちゃ入れたら荷物いっぱいになってさぁ」
両手がふさがってインターホンが鳴らせなくってまいったぜ。
紅真くんは軽くそう付け足しました。
紫苑くんはいまだ呆然としたままです。
話しの展開が早すぎてついていけません。
「なぁ…それより早く飯食おうぜ」
そしたら遊べる時間が増える。
そう云って嬉しそうに笑う紅真君の様子に、紫苑くんもまぁ良いか…という気持ちになります。
二人揃ってお食事の再開です。
「…おいしい」
紫苑くんはポツリと呟きました。
そんな紫苑くんの呟きに、紅真くんは不思議そうに紫苑くんを覗き込みます。
「何云ってんだよ?ハンバーグは紫苑の好物だろ?」
「うん…」
紅真くんの言葉に、紫苑くんはただ頷きました。
違うのです。
本当は、そこに紅真くんが居てくれるから…食事がおいしく感じる。
紫苑くんはそう感じていました。
一人でとる食事は寂しくて、味気なくて…ちっともおいしく感じませんでした。
紅真くんがそこに居てくれるからおいしいのだと。
紫苑くんはでも、上手く言葉に出来なくて…。
先程よりも随分明るくなった気のする部屋の中で、云える確かな言葉だけを紡ぎました。
「紅真…」
「ん?」
「ありがと…な」
紫苑くんは云いました。
紅真君はよく意味が分からなかったけれど…。
でも、紫苑くんが嬉しそうに微笑っているから。
理由なんていいかな?という気になってしまいます。
大好きな人が嬉しそうに微笑んでいてくれれば、それでいい気がしました。
照れくささに頬が熱を持ってくるのが分かって、紅真くんは少し大きな声で言いました。
照れ隠しです。
「な・・・なんだかわかんねけど、別にいいよ。それより早く飯食って、風呂に入っちゃおうぜ」
「うん!」
紅真くんの言葉に、紫苑くんも元気に頷きます。
食事をして、お風呂に入って。
いっぱいいっぱい遊んで。
今日は少しだけ夜更かしをして。
後は一緒に寝てしまおうか。
二人はどんな夢を見ているのでしょう?
幸せそうな天使の寝顔。
繋がれた手はしっかりと…。
大好きな人が隣に居て。
いつも大好きな人と一緒に居て。
それが幸せ。
一人はやっぱり寂しいから…。
ずっと、手を繋いでいましょうか?
ボクとアナタが寂しくないように―――
おわり
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以前に書いた「なかよし」的に。
絵本風?
初めてのお留守番ですv
なんか一気に書いたので所々かなり変。
コメントを書いてるのもちょっと日にちがずれてて変。
って云うか何を書こうとしていたのか忘れて…(汗)
久しぶりに一行あけて書き連ねる方式をとってみましたが…。
どうでしょう?こちらの方が読みやすいですか?
ご意見ご感想お待ちしています。
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