+ 其は眠りにつき 第三…「-aka-其は世界をそめて溢れ」 +
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生まれときからあった不思議な力。 これのせいでいろいろ面倒なこともたくさんあったけど、こんな気分になれるのならば、悪くはない。 頼れるのは自分だけ。 それが悲しいことだなんて、知ることすらできなかった。 頼れるのは自分だけ。 自分でやるよ。 なんだって。 灰色の世界は崩れ、けれど光など入っては来ない。 格子の壁を切り崩し、けれど先には自由な世界などひらけてやいない。 必死で走り、響くのは硬質で高い音。 子供の足なのにね。 なんで、後ろから追いかけてくる彼らは自分には追いつけないのか。 それらを振り切ってから、思わず笑いがこみ上げてきた。 背中に、なぜ三枚の羽が生えるのだろう。 翼ではないのは、自分が心のどこかでここから出ていく気がないからか、世界から抜け出せないことの暗示なのか。 大地と血と焔の色。 すべてあわせて混ぜ合わせ、そこに灰を加えた色。 空に写る沈み行くものと昇り行くものの入れ替わりのときを示す色。 そんなに難しいことを考える必要は、自分にはないのだ。 自分がわからなくても、自分が動くがままに任せていればいい。 それで自分は後悔しないから。 何が良くてないが悪いのか。 そういうことを考えるのは、余裕がある証拠。 ここにはそんなものないから、生きていくために、より自分が目指す生活を実現させるための最良の方法を、選び取っていくだけ。選んで、それを実現させるだけ。 良いか悪いかは自分が決める。 悪くはないだろう。 どんなんだって、生まれたんだから、生きていくのは当たり前のこと。 生きているから、生きたいと願い続けることは悪くはないと…そう、自分が信じている。 生きるか死ぬか。 その選択さえ必要なくなってから、生きていくための方法の善し悪しを考えるよ。 善し悪しを考えていたら、今は、生き抜くことさえできないから。 そしてそれでも、自分の心は縛られることを嫌うだろう。 いつだって自由でいたい。 いつだって自分は自分でいたい。 どこかに属されるのも、何かにくくられるのもいやだ。 自分はただ自分なのだと。 この心が何か得体の知れない力と焦燥にも駆られながら、訴え続けている。 灰色の世界を出て、そこは白かった。 星の瞬く空からはらはらと舞い落ちる、雪。 光り輝く建物に、ひどく心が空虚になった。 こんな子供の一人、捕まえることができないのは、きっと、あんなにたくさんの服を、ごてごてとぼてぼてと着重ねているからだろう。重くて、早く走ることができないんだ。 こんなに暖かいのだから、あんなにたくさんの服を着る必要はないのにね。 頭が良いんだか悪いんだか。 わからない。 ねむいよ。 ねむいよ。 ねむいよ。 いたいよ。 さむいよ。 カズマは赤く染まった自分の右腕を眺めた。 アルター能力を発動すると、自分の右腕はいつもずたずたに切り裂かれる。 けれどそれで何を思うかといえば、べつに何も感じない。 世界が色褪せて、けれどこの自分の中にある朱が、また世界に色をつけていく。 からだがうまく動かなくなってきた。 眠くて、痛くて、きっと、疲れているんだと。 けれど、それを認めるわけにはいかなった。 そこにたどり着いたのは偶然。 朦朧とした意識の中で、霞んでいく視界の中、ひどく暖かく見えた。 たくさんある人口の明かりは白くて、けれどそこから漏れる明かりはやさしい麦畑の色をしていた。 だから、無意識のうちに足が向いていたのかもしれない。 気がついたらそこにうずくまるようにして眠っていた。 もう、明かりは漏れ出(いで)てはいなかった。 血が止まらない。 そんなに長い間眠っていたのではないのだ。 いや、眠ってすらいなかった。 気絶していただけ。 ほんの一瞬、意識が消えただけ。 それで世界は闇に包まれた。 見れば窓の内側にかかった薄い布の隙間から、室内が覗けた。 部屋の中は暗く、中には人の気配。けれど寝入っているようだった。もうしばらく様子を見る。大丈夫そうなら、今夜はここでほんの少し休もう。夜が明ける前に起きて、そしてまた走る。今度は立ち止まらない。一気に駆け抜けて越える。 あの壁を。 やはりあの壁の向こうが自分の世界なのだと。 ここへ来てはっきりと思った。感じた。 結局、あのどうにも不自由で残酷で、荒んだ、けれど自分はあそこが気に入っているのだ。どうしようもないほどに。 もう、離れがたいほどに。 あそこが、自分のテリトリー。 誰もが、生きるために生きている場所。 抗って、貫いている場所。 泣き叫び、血を流し、それでも立ち上がり、また歩き出していく人々。 気配が動いた。 油断なく視線を向ける。 目が合った。 なぜ、逃げ出さなかったのだろう。 背後を見せれば、何をされるかわからなかったから? 違う。 目が…離せなかった。 自分の方へと近づいてくる気配。 闇の中から、月明かりの灯る自分の方へと近づいてくる。その姿が次第にはっきりとしてくる。 赤い瞳。 朱。 色褪せた世界で、まずはじめに色をつけるもの。 自分の腕から流れる鮮血。 目の前にあるのは、深い深い、紅。 閉じられていた布が取り払われるように、左右に引かれる。自分の姿と、相手の姿が相対する。 相手は驚いたようだった。 自分は猫のようにうずくまっていた。 硝子戸が開く。 差し伸べられる手。 そこにいたのは、カズマとそう歳の変わらないだろう少年だった。 碧い髪。深紅の瞳。 反射的に、カズマはその手を振り払っていた。 |
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「aka」はそのまま漢字はいろいろ。「そめて」は「初めて染めて」の意。
時間軸が第一話目からまったく経過していかなくて申し訳ありませんです。
すっごく散文的な書き方で読まれる方はわかりにくいかもしれませんが、すみません。
ものすごく書きやすいです。こういう形。なんか自分の小説の原点に返った感じです。
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