月の精霊 星の王
***ACT-b***
それは遠い遠い昔のお話
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あるとき、月の王様は自分以外の王様をお茶会に誘いました。 とってもとっても美味しいお茶が手に入り、 庭は色取り取りの草花が綺麗です。 みんなに自慢したくなったからって誰が責められましょうか。 お茶会に誘われたのは太陽の女王様と星の王様の二人です。 三人は互いに等しく偉い方で、まぁ、なかなかに親友でした。 月の王様は言いました。 「ああ、我が親友達よ。今日は良く来てくれた。 おいしいお茶と美しい景色を存分に堪能して行っておくれ」 月の王様の住む月の神殿に仕(つか)えるのは月の精霊たちです。 神殿の管理と王様のお世話をする、選(え)りすぐりの精霊たち。 三人の王様たちの前にお茶を運んできたのは、 そんな月の精霊たちの内でももっとも優秀で美しい月の精霊でした。 「お待たせ致しました」 鈴の音のような澄んだ声で対応する月の精霊。 美しいその姿に心奪われたのは、星の王様でした。 星の王様はただちに月の王様にお願いします。 「月の王よ。月の王よ。我が親友よ。 どうか貴方の所のこの方を、私のもとには くれまいか」 月の王様は驚きました。 そんな事は前例がありません。 王様とそのお世話をする精霊。 身分は格段に違います。 しかも月と星では種族も違うのです。 月の王様は悩みました。 親友の願いは聞いてあげたいけれど、 優秀な精霊がいなくなるのは痛いです。 そう云えば精霊の方の気持ちはどうなのでしょう? 幾らなんでもこれは王様が一人で決めていい事ではありません。 そこで月の王様は、まずは月の精霊の気持ちを確かめる事にしました。 「精霊よ。星の王はこう言っている。お前はどうだい?」 星の精霊は暫らく困ったようにしました。 精霊は自分の身分をわきまえています。 種族も身分も違う人の言葉に、自分が意見をしても良いのでしょうか? しかし聡明な月の精霊は、月の王様の心遣いと 星の王様の真摯さに意を決して口を開きました。 「王様。王様。私の仕える月の王様。 もしお許し頂けるなら、私は一目見て心惹かれた このお方に、ついて行きたいのです」 月の王様は心を決めました。 二人の思いを受け入れたのです。 月と星と太陽と。 あまねく世界のみんなみんなが祝福しましたが、 種族違いの身分違いな二人が一緒になるには、 総べる世界の神様のお許しが必要なのです。 「神様。神様。この世界の全てを総べるあなた様にお願いがあるのです」 神様は言いました。 「ダメだ。ダメだ。それは決して許されない事だよ。 身分の違いは許せても、種族の違うお前たち。 決して相いれるわけが無い。いつかきっと傷つくよ」 二人がどんなに願っても、その愛を誓って見せても、 神様は決して首を縦には振りません。 絶望と悲しみに打ちひしがれた二人を見、 神様に意見したのは太陽の女王様でした。 「神様。神様。偉大なあなたは二人の愛を疑っておられるのでしょう。 私たちはあなたの子。 あなたはあなたの愛する子らが傷つくのを心配しておられるのでしょう。 そこで私は提案します」 太陽の女王様が提案したのはこう云うことでした。 「星の王を、もっと別の誰かに生まれ変わらせて ――そう、もっともっと今よりもっと 二人を間をはなれた種族にするのです。 記憶が消えてそれでも尚、星の王が月の精霊のことを 心から思い、求め、その愛を誓えたのならば。 二人の愛は永遠。 きっと離れる事も傷つく事も無いでしょう」 神様も星の王様も月の精霊も。 みんな太陽の女王様の提案を受け入れました。 月の精霊は初めは反対しましたが、当の星の王様の決意は固く 月の精霊が反対する事はかなわなかったのです。 悲しみ心配と不安に顔を歪める月の精霊に 星の王様はある約束をしました。 「愛しい愛しい月の精霊よ。 悲しむ必要はないよ。これは私が決めた事。 なんの心配もいらない。私は必ず君の元に戻ろう。 さあ、受けとっておくれ。これが私の君への誓いだ」 そして星の王様は生まれ変わったのです。 遠く。遠く。 彼らの生きる世界とは次元すら分かれた 遠い地球という名の星の人間に――。 |
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