お前は何をしているのかと
すべてが終焉を向かえ、自問自答する。お前は何をしているのかと――。 |
鮮血の華など、咲きはしなかった。 修羅の世は終わりを告げたのか。星の煌めきはいつまで残るのか。 永遠にも程近く感じられるそれらの前にあってはあまりにも短い時間しか持たぬ彼の身では、その答えを知る術はない。 ただ予想を立て、或いは祈りを捧げ、思いを馳せることだけが叶うことのすべてだ。 触れてもいいと許されて。否、そんな許しを請う前から、彼がその純白に触れることにはなんら障壁などありはしなかったのだ。彼の、自分は触れてはならぬと思い込む、その心以外には。 指先に白い頬が触れて、夢にまで見た夢以上のその素晴らしさに、彼は息を呑んだ。 そうすればそれまで滾っていた憎悪の炎が、どうしたことだろう。すっかり収束し、果ては鎮火してしまった。 なんと現金なものだろう。 自分が彼にとって取るに足りぬ存在ではないと知れたその途端に、それまで目指していたすべてがどうでもいいものへと変わる。 まったく何をしていたのかと。呆れるばかりだ。 欲するものはこんなにも近くにあったのに、いったいどれほど多くの遠回りをしてきたのだろうか。 はじめてその白き貴き人を自分が見つけたときに、その人は確かに自分を見ていたというのに。何も知らぬ無垢な瞳を持って、初めて目にした人間の姿に不思議そうに小首を傾げていたというのに。 はじめから、この姿を認識していたというのに。 それだけで満足する自分に呆れながら、この心の安らぎようはどうだろう。 このまま永遠の眠りについたとしても、何の悔いもない。或いはそのことにさえ気づかずに逝けるかもしれない。 ああ、白い雪の上に横たわっている。 このまま、冬の薄ぼやけた曇天を見上げて逝くのだろうか。雲間から僅かに差し込む日差しが、まるで梯子のようだ。 彼のために何かが出来たら。そのことで彼が微笑んでくれるのなら。 そんなことを思う日がやってこようなどとは、思いもよらなかった。 地平の果てには、まだ星が残っているだろうか。雲に隠れてさえ、幾千万の星の輝いてるのかさえ分からなくさせる太陽の偉大さに、ああ、はじめから勝てるはずがなかったのだと思い知る。 修羅の何がいけないのかと思っていたが、彼の表情が安らがないのであれば、それだけで良くないのだと、今ならすんなりと理解できるのが不思議でおかしかった。 『お前、何、してるんだよ…ッ』 遠く、喉を詰まらせて叫ぶ愛しき人の声が、聞こえた気がした。 |
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