月の精霊 星の王
***ACT-a***
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星の王様の月の精霊への愛は本物でした。 その強い真実の愛に心打たれた神様は二人のことを認め、 そしてさらには今まで世界に根強くあった身分の垣根をも すべてきれいにさっぱりと取り除いてしまったのです。 「この世に、もう私は必要ないのだ」 神様はそう云い、消えてしまいました。 それは静かに。 消えてしまいました。 人々は初め混乱しました。 急にそんなこといわれても、生まれる前からあった決まりです。 いきなり無くなったといわれても、意識は早々簡単には変わりません。 身分の低い者はやはり身分の高い者を敬うし、 逆の場合ももちろんのこと。 けれど太陽の女王様は云いました。 「この世界はこれから一つになるのです。 無くなるのは身分だけではなく、 「太陽」、「月」、「星」という三つの種族の垣根さえ越えて、 私達はみんな一つになるのです。 この世界に生きる者としての意識が、これからはすべてを支えるでしょう」 人々は困惑しました。 それでは三つの種族の王はどうなるのか。 いくら種族の垣根を越えるといっても、そんなことは前例がないのです。 けれど月の王様は云いました。 「変わることが出来る。きっと変わることが出来る。 君達ならばそれが出来ると、私は信じている。確信している」 それは力強く、人々にそうかもしれないと信じさせる物でした。 今までの絶対的な支配の元に築かれた美しい平和を。 争そいも競争もない美しい美しい世界を。 変えてまでも解き放たれ自由になり。 それでも尚、真の平和を世界を。 得ることがきっと出来ると。 そう、月の王様は云いました。 それは決して美しいだけではないかもしれません。 もしかしたら、誰か傷つく人が出てくるかもしれません。 それでも、それは誰かに与えられた物では決してなく。 確かに自分達の手で手に入れたものなのです。 本当の世界は、きっと自分達で作り上げる物なのだと。 月の王様は云いました。 「厳しく、辛いこともあるかもしれない。 それでも、そこで歩いて行くことをやめようとは思わないだろう」 じぶんで、みんなで、作り上げた物なのだから。 「これからは自分のために歩くといい。 自分の夢を見つけ、理想の自分を思い浮かべ、 それに少しでも追いつくために歩くといい」 そう云ったのは、記憶を戻しこの世界に戻ってきた星の王様でした。 彼はこう云います。 愛する人がいるのなら、その素直な心を。 強くなりたいと願う自分がいるのなら、真っ直ぐと。 たとえ誰がいなくとも 目指す理想が、高みがあるのであれば。 それに向かって歩いて行けばいい。 時にはどこまでも我侭になって。 「自由だ。自分を縛るものは自分だけでいい」 それは風のよう。流れる空気のよう。 ただ真っ直ぐ。時には寄り道をする者もいるかもしれない。 けれど誰がそれを咎める。 誰にそうする権利がある? もしあるとするならば、それは自分自身。 自分が悔いるような行為をした自分自身。 他に、誰がいる? 「鎖は断ち切られました。それでも、生きていく道を模索しましょう」 それは月の精霊の言葉でした。 星の王様の隣りで、とてもとても綺麗に微笑む月の精霊。 そのお腹の中には、これからの新しい未来を生きていく子供。 ただ生きるのではなく、みんなで生きていける道を探そう。 一人では辛いから。悲しいから。淋しいから。 生きる目的がなくても、死を選ぶことだけはしないで。 死んだらもうそこでおしまい。 何も始まらない。終わらない。変わらない。 だから、生きていく道を探そう。 「引っ張ってくれる誰かが必要ならば決めましょう」 初めからいる誰かに従うのではなく。 決められた道をただ歩むだけでなく。 共により良い道を模索しながら生きていく。 そうして、人々はまず「王」を決めました。 それはこの世界の王です。 人々の、世界の平和を願い、 それに向けてどこまでも積極的に歩いて行く心を持った王です。 「ぜひ、太陽の女王様に」 人々の言葉に、希望に、願いに。 太陽の女王様はその日、世界の女王様になりました。 太陽の女王様がいつも世界の平和を、 人々の平和を願ってくれていたことを、誰もが知っていました。 月の王様はいつだって、すべての人々の心の支えです。 とても力強く、真っ直ぐで、厳しい人でした。 星の王様は愛する月の精霊のために生きています。 どこまでも我侭に。 少しでも長く、月の精霊と、 これから生まれるすべての命が生きていけるように。 月の精霊は云いました。 「逢いたい人に、これから逢うすべてのことに逢う為に 私達みんな、生きていきましょう」 はじめまして 久しぶり さよなら また、今度 いろいろな言葉を紡ぎながら。 一つ一つ、未来を紡いでいく。 それ一つは小さな歩みでも。 歩き続けてできた未来は、 それから先も続く未来は、限りないと信じられるから。 |
「それは遠い遠い昔のお話。そうして、今があるのです。そして、未来が創られていくのです。新しい命と、いくつもの出会いによって……」 風の吹く丘の上で、女性はそう締めくくりました。 女性の膝の上には赤い瞳の子供がきょとんとした様子で、女性の顔を見つめています。 その横には藤色の瞳の子。 やはり同じようにきょとんとした表情で、その女性を見つめています。 女性の子供達です。 彼女は子供達に向け、優しく微笑みかけました。 「私がね、あなた達の父上に。そして、あなた達に出会えて、どうしようもなく嬉しいって。幸せだって、ことなのよ」 そう云えば、子供達も嬉しそうに笑い。 けれど、彼女の耳元で金色のカフスが太陽の光に反射して輝き、その笑みが深いものになったのは…子供達にも見ることが出来ませんでした。 とても、とても綺麗な微笑でした。 |
それは遠い遠い昔のお話
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